Chet Atkins with Tommy Emmanuel

01 Borsalino
02 To“B”Or Not To“B”
03 The Day Finger Pickers Took Over The World
04 Tip Toe Through The Bluegrass
05 News From The Outback
06 Ode To Mel Bay
07 Dixie McGuire
08 Saltwater
09 Mr.Guitar
10 Road To Gundaghi/Waltzing Matilda
11 Smokey Mountain Lullaby
1997年
Columbia CK 67915

1997年に発売されたまさしくチェットの遺作となったアルバムが本作だ。
この作品をチェットのラスト作と云うのは些か抵抗を感じるのだが、しかしこのアルバムは紛れもなくチェットの最後の作品である事に違いはない。
だが聞いてみれば分かるようにこの作品でのチェットの影は薄い。
チェットの晩年の作品がだいたいそうであったように、このアルバムに於けるチェットも弾きまくるというよりも心底音楽、そしてギターを楽しんでいるように聞こえるのだ。
前作「Almost Alone」で自分のアルバムとしては全てをやり終えて、最後に孫と遊んでいるような安らぎを感じさせてくれるアルバムである。
このアルバムでもっぱら耳を引くのはトミー・エマニュエルの力強いプレイだろう。
このサイトで紹介しているチェットの他のアルバムのところでも述べているが、まさしくこのアルバムでチェットは後身にバトンタッチをしたのだと思う。
そんな事を実感させてくれるアルバムだ。
正直に言ってしまえばトミーのアルバムにチェットがゲスト参加したといった趣の作品だが、チェットの晩年の作品に通して感じられる「滋味溢れる」雰囲気の音作りは損なわれていなくて、その部分ではチェットのアルバムとしての面目は保たれている。
そんなことからこのアルバムをチェットのアルバムとして捉えていいのか良く分からない部分もあるが、些末な事は横に置いておくことにして改めて聞いてみるとすばらしいギター・アルバムに仕上がっていると思う。
第一に楽曲が良い。
トミーの作品、そしてチェットの作品もそれぞれ何曲か収められていて、雰囲気の良い曲が多い。
中でも私のお気に入りは1.「Borsalono」、2.「To 'B' Or Not To 'B'」、7.「Dixie McGuire」、8.「Saltwater」、9.「Mr.Guitar」、10.「Road To Gundaghi/Waltzing Matilda」などで、キャッチなメロディを持った曲が多い。
特に9の「Mr.Guitar」はトミーの作品で、これは紛れもなくチェットに捧げられた曲といって良いだろう。
こういう曲を聞いているとトミー・エマニュエルという人はギタリストとしての腕ばかりでなく、コンポーザーとしても非凡なものを持っているようだ。
その事はトミーのアルバムを聞いてみれば分かるが、その話は別の機会に譲るとして、この「Mr.Guitar」に於けるトミーの作曲能力はなかなかだと思う。
実にチェットらしい曲だと思うのだ。
「チェットらしい」とは言い回しが変であるが、チェットの雰囲気を実に良く曲に表した思う。

注目したいのはこの作品に収められた曲をトミーが演奏している映像作品がある事だ。
このサイトでも既に紹介しているし、熱心なチェット・ファンなら御存知の事だと思うが、
トミーの「Live At Sheldon Concert Hall」という映像作品でこのアルバムの収録曲を7曲ほど演奏しているのだ。
それは偶然にも私のお気に入りとして先に挙げた曲が演奏されている訳で、これはチェット・ファンなら必見だ。
この映像作品ではトミーの力強いプレイが堪能でき、チェットの晩年のプレイと比較すると世代の交代という感じは免れない。

チェットの影が薄いとはいえ「The Day Finger Pickers Took Over The World」というアルバムがチェットのラスト作であるのは事実で、しかもなかなか良い出来なので是非聞いて欲しい。
その時には先に挙げたトミーの映像作品も併せて見れば興味は倍加するだろう。
因みに私はその映像作品を初めて見た時、「Waltzing Matilda/Road To Gundaghi」のあたりでこみ上げてくるものがあって、胸が熱くなってしまった位で、近年のギターを素材にした映像及びCDの中でも傑作と呼ぶに相応しい作品である。