ウディ・アレン監督・脚本
「ギター弾きの恋」

1999年作品
ウディ・アレン監督・脚本
出演:ショーン・ペン、ユマ・サーマン
DVD:TOSHIBA
    THD-10981
映像特典:監督インタビュー、日本版劇場予告編
       海外オリジナル劇場予告編、日本版TVスポット


ウディ・アレンの監督として30本目にあたるという記念すべき作品は「音楽で泣く事は出来ても、女で泣く事はない」というギタリストの可笑しくも悲しい純愛映画になった。
本作が映画評論家などの間でどういう評価をされているのか知らないが、この映画は音楽・・・・とりわけジャズに造詣が深い事で知られるウディ・アレンのかなり私的な映画とも思える仕上がりだ。
物語は1930年代のアメリカを舞台にジャンゴ・ラインハルトを世界一のギタリストと崇拝し、自分は世界で二番目のギタリストだと自負するミュージシャンの儚いストーリーだが、全編にジャンゴ・ラインハルトを彷彿とさせるギター音楽が散りばめられているので、ジャンゴが好きな方にはたまらない映画だ。
ここでストーリー展開について述べるのはこのサイトの本筋ではないので音楽の事を中心に語っていきたいと思う。
悲しいことにミュージシャンを題材にした映画というのはあまり多くなくて、ましてやギタリストが主人公となると思い出すのに苦労する位製作本数は少ないように思う。
私がこれを書きながら思い出したのは今から14〜15年前位だったと思うが、「ベスト・キッド」でお馴染みのラルフ・マッチオが主演した「クロスロード」というブルース・ギタリストに憧れる少年を主人公にした映画くらいなものである。
ジャンゴ・ラインハルトと映画の結びつきという事になると、ますます接点は少ない。
これも古い映画だが「ルシアンの青春」という映画でジャンゴの音楽が効果的に使われていた事もあった。
あとはどうしてもギタリストにスポットが当たった映画を思い出す事は出来ない。
しかし久々に見る「ギタリスト映画」はなかなか面白かった。
前にも述べたようにこの映画の主人公になるギタリスト“エメット・レイ”はジャンゴ・ラインハルトを師と仰ぎ、ジャンゴと実際に会ったりすると失神したり、彼が演奏するクラブの客席にジャンゴが来ているとバンド仲間に騙されたりすると緊張のあまり現場から逃走してしまうという程の小心者であり、なおかつジャンゴの存在については神に近いものを感じている人間なのである。
この主人公のジャンゴに対する想いというのは、そのままウディ・アレンのジャンゴへの想いなのではないだろうか。
映画からは崇拝というよりも畏怖の念ともいえる位のジャンゴへの想いが伝わってくるのだ。
“エメット・レイ”の相手役を務めるユマ・サーマンも良い。
口がきけないというハンデを負いながらも純粋で一途な女性を演じている。
最初は何か冴えない女の子の印象を与えるが、ストーリーの展開とともにどんどん可愛くなっていくあたりは映画のマジックなのだろうか。

ケチを付けたいところもある。
この映画への出演にあたって主人公の“エメット・レイ”を演じるショーン・ペンはギターの特訓を受け、映画の中で弾いている曲はすべて弾けるようになったというが、画面で見る演奏シーンはやはりウソ臭くてこの種の映画の難しさを感じてしまう。
画面ではギターを弾いている“フリ”をしているのに、とても実際に弾いているようには見えないというのはいささか興醒めの部分でもあるが、それは私が多少なりともギターを弾けるが為に感じる事なのだろうか。
またこの映画の中で実際にギターを弾いていたのはジャズ・ギタリストのハワード・アルデンで、この人の実績や技術にケチを付ける気持ちは毛頭ないが、やっている曲がジャンゴと共通する部分が多いのでどうも比較してしまうのである。
ジャンゴの豪放さや骨太感とは程遠いくらい線の細い演奏で、ジャンゴに次ぐ世界で二番目のギタリストを自負するミュージシャンの演奏を吹き替えるには弱い気がするのだ。
他に適任者と言われても私には思い付かないが、この映画のなかで演奏の善し悪しはかなり重要なファクターとなるワケでどうしても気になってしまうのである。
だがこの映画がギタリスト、しかも1930年代のミュージシャンを主人公に据えたものとしてある種の特殊性を帯びるのは仕方がない事で、能書きを言わずに純粋に映画を楽しんだ方が良いのだろう。
1930年代を再現したノスタルジックなセットも美しいし、あたかも“エメット・レイ”が実在のギタリストであったかのようなドキュメンタリー・タッチの構成も面白い。
この映画を見て“エメット・レイ”のCDを探しにお店に行った人もいるのではないかと思われる位に巧みな構成だ。

01 I'll See You in My Dreams
02 Caravan
03 Sweet Georgia Brown
04 Unfaithful Woman
05 Viper Mad
06 Wrap Your Troubles in Dreams
07 Old-Fashioned Love
08 Limehouse Blues/Mystery Pacific
09 Just a Gigolo
10 3:00 AM Blues
11 All of Me/The Peanut Vendor
12 It Don't Mean a Thing
13 Shine
14 I'm Forever Blowing Bubbles
15 There'll Be Some Changes Made
オリジナル・サウンド・トラック
ソニー SRCS 2402

プロデュース:ウディ・アレン
アレンジ&指揮:ディック・ハイマン
ギター:ハワード・アルデン
映画のオリジナル・サントラ盤がこれ。
1曲目の「夢で逢いましょう」は多くの人がカバーしている有名人気曲。映画の中では完奏していなくて欲求不満が残ったが、これを聞いてやっと満足した次第。ジャンゴが好きな方なら曲目を見て頂くと一目瞭然だと思うが、ジャンゴのレパートリーと共通曲が多い。
上記の本文中でも述べたように曲目が同じだとどうしてもジャンゴとの比較になってしまう部分もある。
不世出の偉大なギタリストと比較してはいけないが、私は線の細さが気になってしまうのだ。
しかし、ケチを付けながらも聞いていて不満なワケではなく、この時代が好きな私としては充分に楽しんで聞いている。
映画の中では全ての曲を完奏というワケにはいかず、どうしても途中で切れてしまう事も多いが、それで不満が残ったらこのサントラを聞いて欲しい。
通常サントラ盤というのは音楽的にはどうにもならないものが多いが、このCDは音楽CDとして聞いても充分に楽しめる内容だ。
DVDの音声はどういうわけかモノラルなのだが、このCDはちゃんとステレオ録音になっている。