何故か知らないが日本でジョニー・スミスというギタリストは不当過ぎるほど知られていないし、また評価もされていない。
まあ理由は良く分からないが世の中にはこういう人がいるものである。
ジョニー・スミスはよく「ミュージシャンズ・ミュージシャン」とも言われて、確かに私の周囲を見てもミュージシャンに
非常に人気が高いようだ。
かなり昔の話だが私がアメリカに行った時、ある音楽プロデューサーと話をする機会があった。
それでその時にプロデューサー氏は私の音楽の好みを聞いてきた。
まあそれで私なりに好みを言い、そして好きなギタリストの名を列挙した。
そしてジョニー・スミスの名を挙げたところでプロデューサー氏は大いに驚き、「まったくあなたの好みは渋すぎる」
と言われてしまった。
ジョニーの母国アメリカでさえそんな調子だったら日本での人気はおよそ見当が付くが、とにかく私としてはジョニー
の素晴らしさをもっと知ってもらいたいと思い、このようなページを設置した次第です。
一言だけ付け加えておくと、ジョニーはギタリストとしてばかりでなく、指揮者、アレンジャーとしてアメリカのTV番組
「エド・サリバン・ショー」で活躍した他、クラシックの分野でも仕事をしている職業音楽家といえる。


■ヴァーモントの月
ジョニー・スミスの代表作として紹介される事が多い作品で、おそらく1952年頃の作品。本作品は当時同じNBC傘下にいたスタン・ゲッツとの共演盤で、ジョニーの端正なギター・ワークが楽しめる。
ここに掲げたジャケット写真は1991年にCD化された時のもので、現在でも多く出回っているので入手は容易だ。
全19曲の収録だがそのうち7曲はボーナス・トラックで、ボーナス7曲のうち1曲は未発表テイクという事なので、お買い得感は高く、ジョニー・スミス入門用としては最適かもしれない。


■ヴァーモントの月
こちらはアナログLP盤のジャケット。現在CDでもこのジャケット・デザインのものがあるようだが、収録曲などが上記のアルバムと相違があるのか詳しい事は分からない。
収録曲は12曲だが、本作品のオリジナルは10インチ盤でのリリースだったようで、そうなると当然収録楽曲数が少なかったと思うのだが、その辺の詳細は不明。
なにしろジョニーに関するデータは少ないのだ。
だが本作がギタリスト、ジョニー・スミスを世に知らしめた出世作で、これを機にジョニーの名は広く知られるようになりアルバム録音も増えていった。
因みにこのジャケット・デザインが10インチのオリジナル盤リリースの時のジャケットだったようだ。
■ザ・サウンド・オブ・ザ・ジョニー・スミス・ギター
こちらは同名タイトルのオリジナル・アルバムから9曲、そして「ジョニー・スミス・プラス・ザ・トリオ」から11曲を加えたアルバムで、2001年にCD化されている。
最初の9曲、つまり「ザ・サウンド・オブ〜」にはピアノのハンク・ジョーンズが加わっており、ヴァーブ盤のようなポピュラリティはないものの、心地良い音を聞かせてくれる好盤だ。
ジョニーのギターにはハンク・ジョーンズとのピアノの相性が良いようで、端正なギターが存分に楽しめる。
■ムーズ
これは2002年にリイシューされた作品で、過去にリリースされていたアルバムがCD化されたという事のようだが、この作品に関しては詳しい事が良く分からないのだ。ただ本作の紙ジャケットの右上に「ROOST LP 2215」の記載が見られるから、LP盤として存在していたというのは確実なようだ。
しかし本作がベンチャーズがカバーした「ウォーク・ドント・ラン」を含む「イン・ア・センチメンタル・ムード」そして「イン・ア・メロー・ムード」という2作品から抜粋された1種のコンピ盤である事は確かで、両アルバムの合計収録曲数16曲から4曲が除外された12曲で構成されている。アルバムタイトルの「ムーズ」というのもこの2枚のアルバム・タイトルからから引用して付けたと思われるネーミングだ。
「これでもか!」という感じのトラ目が見事に浮き出たギターを使ったジャケット・デザインがなかなか良い。
■ザ・ニュー・カルテット
どうもタイトル名がハッキリしないが、この作品は1956年9月にニューヨークで録音されたもので、本作は1989年にCD化されたスペイン盤。ギター・ベース・タイコにヴァイブが加わった4人編成で、いつものジョニー・スミスよりも幾分強くジャズ方向に振れている気がする。
とは言っても収録曲の10曲はだいたい2分から4分台の演奏時間という曲が多く、そういう意味ではここでもジョニー流の聞き易いジャズが堪能できるといえるだろう。
■ジョニー・スミス
そのものズバリのタイトルが付けられたヴァーブ移籍1作目。録音は1967年の3月、ニューヨークにて。
正直に言えば私が最も好きなのはヴァーブに残された3枚のアルバムだ。
ルーストの時よりももっとムード・ミュージック的な方向に振れている感じがするが、それが最もジョニーの個性やテクニックを際立たせていると思う。
それにルーストの時代よりも格段に進歩した録音技術による恩恵も大きく、ジョニーの端正で確実なコードワークや美しい音色を楽しめる盤だ。
■カレイド・スコープ
ヴァーブに於ける2枚目で録音は1967年11月。
当時私はこのアルバムを入手出来なくて長い間涙を飲んだが、1998年に世界初CD化のお陰で入手できた。
目出度い事である。
前作の所でも書いたようにヴァーブ時代のジョニーがいちばん好きな私であるが、それはジョニーのギターばかりでなくハンク・ジョーンズのピアノによるところも大きいのだ。
しかしこうしてルーストからヴァーブの音まで通して聞いてみると、どの作品も平均点が高いのに驚かされる。
まさにプロ、或いは職人という感じで非常にクオリティの高い演奏で作品作りを続けられた秘訣は何だったのだろう。
詳細あり
■フェイズU
私にとっては記念すべきアルバムで、ジョニーにとってラスト・リーダー・アルバムになってしまった本作が私とジョニー・スミスの出会いであった。1968年作。
ヴァーブに移籍してから楽曲的にはムード・ミュージックっぽい選曲が加速してきたように思うが、その中で最もその傾向が強いのが本作ではないだろうか。しかしながらジョニー・スミスの持ち味である正確無比なピッキングや和声は健在で、聞き易い選曲の中でそういう高度なワザを聞かせてくれるこの人ならではの作品だ。
私が特に心酔したのはB面トップに収められた「サニー」だ。2分40秒ほどの短い演奏だがジョニー・スミスの全てが盛り込まれたような美しくも流麗な響きのギターは最高。ハンク・ジョーンズのピアノも聞き逃せない。
■ベニー・グッドマン・セクステット
1986年CD化のベニー・グッドマン・セクステットのアルバムだが、この中に3曲ジョニー・スミス参加作品が収録されている。「Lullaby Of The Leaves」「Temptation Rag」「Farewell Blues」の3曲で、1950年と1951年の録音。
ジョニー・スミス名義の作品の時みたいに目立ったプレイはしていないが、ベニー・グッドマンの良く歌うクラリネットとのコラボレイションが楽しい。他のジョニー作品とはちょっと違う雰囲気が新鮮で、たった3曲だけの収録なのが残念だ。
尚、他の曲ではギターにマンデル・ロウ参加の曲が多くて、こちらもヴァイブやクラリネットとの絡みが楽しく軽快で一聴の価値がある。
■マイ・ディアー・リトル・スイートハート
ジョニー・スミスが愛娘に捧げたというタイトル曲をはじめ、美しいスタンダードが収録された珠玉の名演集。
オリジナルは1960年のルースト盤だが昨年秋に24Bitデジタルリマスターで発売された国内盤がこれ。ジョニー・スミスのギターはいつも美しいが今作品の美しさはまた格別で、うっとりと聞き惚れてしまう。ギター・アルバムというのはともするとテクニックが先行して「どうだ、参ったか!」的になってしまう事もあるが、ジョニーの演奏にはそういった敷居の高さは全く感じられないし、特にこの作品でそういう傾向は顕著だ。
バックにオーケストラが入った分ムード音楽的な雰囲気は免れないが、しかしそういったアプローチにこそジョニー・スミスの本領が見える気がする。とにかく美しい。
ジョニー・スミス・ファン必携だ。