1960年代末、私が本格的に洋楽に入れ込みだした最初期のアーティストは
ブルース系ロックのギタリスト達で、その中でもマイク・ブルームフィールドと
ジョニー・ウィンターにはずいぶん入れ込んでしまった。
ジョニーはそのキャリアの途中でかなりロック方向に振れた時期もあったが、
それはそれとしてやっぱり私にはブルースまっしぐらのジョニーが好きだ。
バカのひとつ憶えみたいに、とにかくブルースに埋没してるジョニーが魅力的だ。
サスガに最新作では年齢のせいかすっかり落ち着いたプレイに終始して
いて、いささか驚いたりしたがそれもまぁしょうがないかと思うのだ。
でもちょっと老け込むのが早過ぎはしないか?

まあそんなワケであるようでなかったジョニー・ウィンターのライブラリーを
作ってみました。



ライブ作品
Live in Houston 1969
1991年にCDリリースされた作品で、ジョニーのお膝元と云えるテキサス州ヒューストンでの1969年のライブを収録したもの。
1969年といえば大金が乱れ飛んで音楽シーンを騒がせたジョニー争奪戦の末にCBSからデビュー・アルバムがリリースされた年で、声にもギターにも若さが溢れていた時期だ。
このライブだって悪かろう筈がない。オーディエンス録音っぽい感じがするが、そんな事は帳消しにしてしまうジョニーの凄さがここには溢れている。
後年のジョニーはギターの音にいつも何かしらのエフェクトが掛かっていて、今ひとつ私の好みではないのだが、この作品では音がクリアでエフェクト感は少ないのが嬉しい。
特にスロー・ナンバーの「マザー・アース」は何回聞いても身震いしてしまう格好良さで、「これがジョニーなんだよ」と云いたくなってしまう。

Live Johnny Winter And
ジョニーのライブといえば最初に思い出されるのがこの作品だろう。
元マッコイズのリック・デリンジャーを迎え最もロックに振れていた時期のライブで、迫力に満ちた演奏が繰り広げられる。選曲もロックの色彩が濃く反映されてて、ブルースはジョニーお得意の「It's My Own Fault」とオリジナル作品でスライド・ギターが炸裂する「Mean Town Blues」位のもので、ジョニーのブルース・プレイを期待する向きにはちょっと厳しいかもしれない作品。
ブルース・ナンバーの収録が少ないのは残念だが、この作品は飛ぶ鳥を落とす勢いだった頃のジョニーのステージが記録されているだけでも貴重だ。
しかし、「It's My Own Fault」でのギターの音色、他では聞けないまろやかな音だ。
Captrured Live!
1976年に発表されたこの当時としては2枚目のライブだった。この時期すでにジョニーはリック・デリンジャーとは別れていたが、まだこの作品ではロック色が濃く残っていて“ロック的”弾きまくりのジョニーが堪能できる。
しかし、これが良いかと問われれば素直に「良い!」とは云えないのもツライ。
B面で長尺のブルースを2曲やっているが、今日聞き比べてみれば上記の1969年ライブとはかなり違うブルース・フィーリングで、やっぱりこれはロックということになるんだと思う。だが会場の雰囲気はなかなか凄くてかなり大人数を収容する会場だというのが分かり、まだまだジョニー人気は健在だったようだ。

LIVE IN NYC '97
これは1997年のライブ。
私から見ると80年代以降のジョニーは不調だったように思うのだが、それは70年代と違ってギタリストがロック・シーンで主流ではなくなってしまったという事も大きいのかもしれない。
90年代に入ってからポイントブランクから発表された何枚かのアルバムが非常に良かったという事もあって、このライブには期待を寄せたのだがやはり今ひとつであった。
ただ私的に非常に心惹かれたのはこの作品にフレディ・キングのインスト「ハイダウェイ」が収録されていた事。何を隠そう(隠す必要もないが)私は「ハイダウェイ」が大好きで、この曲が収録されているアルバムを見るとどうしても欲しくなってしまうのだ。
・・・というワケでこのアルバムは私にとって「ハイダウェイ」収集用という意味もあるのだ。
Together
これはジョニーの単独アルバムでもないし、殆どブルースもやっていないのだが個人的にはとても気に入っているアルバム。ジョニーとエドガーの「ナウ&ゼン」ともいえる内容のアルバムで、ウィンター兄弟が影響を受けたと思われる古いロックンロールやソウルなどを軽快に聞かせるライブアルバムだ。
「ハーレム・シャッフル」や「ソウル・マン」などのウィンター流解釈も楽しいし、私にとっては「マーシー・マーシー」はここで聞けるテイクがベストワンだ。
ロックン・ロール・メドレーも「ライブ/ジョニー・ウィンター・アンド」のメドレーのように重くなくて、これも私の好みに合っている。詳細はこちらへ
Roadwork
これもジョニーのアルバムではなくて、エドガー・ウィンター&ホワイト・トラッシュのアルバムにゲスト出演した時のもの。ハッキリとクレジットされていないのだが録音された時期は1971年と思われ、ニューヨークのアポロ劇場と、ロス・アンジェルスのウィスキー・ア・ゴー・ゴーでの録音。
ジョニーの参加は1曲だけで「ロックン・ロール・フー・チー・クー」の演奏だが、ジョニーの参加によって俄然音が厚くなり格の違いを見せ付ける。
確かこの時のジョニーは病み上がりだった筈だが、まるでキリストを彷彿とさせる容貌は貫禄勝ちといった所だ。
だけどこのアルバムはジョニーの参加云々といった事を抜きにしても充分に良いアルバムで、こういうグループがツアーして回れるアメリカ音楽の懐の深さが羨ましい。
スタジオ作品
The Progressive Blues Experiment
私が最も最初にジョニーのギターを耳にしたのはこのアルバムの作品で、従って印象が深い作品だ。1969年の発売だが、もともとはジョニーが地元のマイナー・レーベル“ソノ・ビート社”で吹き込んだものを、ジョニー人気を当て込んだリバティ社がリリースしたものだ。
1曲目の「ローリン・アンド・タンブリン」から全開のジョニー節が炸裂する。カミソリのようなスライドが凄くて、私的には後のどのアルバムで聞けるスライドよりもここで聞けるプレイに魅力を感じてしまう。ジョニーの18番とも云える「「It's My Own Fault」を他のふたつのライブテイクと聞き比べるのも面白い。
スタジオ録音ではあるが感覚的には非常にライブに近い作品。
ジョニー・コレクションには必携の1枚。
Johnny Winter
ただ本人の名前がそのままアルバム・タイトルになったCBSでのデビュー盤。
日本では「世紀のスーパースター」というタイトルが付けられて、物入りでの作品だったワケだがその割にはセールス的には伸びなかったようだ。だが、初期のジョニーがそうであったように、この作品でも真摯にブルースに向かい合ったジョニーの姿が刻まれている。
今日聞いてみればこれがセールス的に伸び悩んだというのも頷ける。コマーシャルな部分など皆無で、ただひたすらブルースに埋没するジョニーは私のようなファンには魅力的だが、レコード・セールスという点から考えればちょっと厳しいと思う。
ジャケットの写真もなかなか格好いい。
Second Winter
1969年発表のCBSでのセカンド・アルバム。
当時1.5枚組、つまりレコード盤は2枚だが2枚目のB面にはなにも刻まれていないという事が話題になったが、国内盤は1枚に凝縮して発売された。なぜ1.5枚、つまり3面になったかというのは「結果的にそうなってしまった」というのが真相らしいが、1面では伝統的なブルース、2面ではロックン・ロール、そして3面ではジョニーのオリジナル作品という事になっていて、一応それなりのコンセプトはあったようだ。
この作品は上記2枚のアルバムのようにソロ弾きまくりという感じではないが、出来は素晴らしい。サウンド自体もこの盤だけちょっと異質で特に1曲目から3曲目までの音は重い感じの仕上がりになっている。ブルース一辺倒というよりもこの時期の流行りだった“ニュー・ロック”を意識した音作りの結果かもしれない。
1曲目の「Memory Pain」がやたらに格好いい。
Second Winter/Legacy Edition
昨年11月に国内発売されたセカンド・ウィンター/レガシー・エディション。
このレガシー・エディション・シリーズはなかなか興味深いものが多いが、この作品は私にとって特別なもの。未発表テイクのボーナス・トラックが2曲追加され、更に全9曲/72分に及ぶ1970年ロイヤル・アルバートホールに於ける未発表ライブ盤が付いているのだから、これは特典なんてものではなくて立派なニュー・アルバムと云える。この頃のジョニーは本当にカッコイイ。
1969年のヒューストン・ライブでもそうだが、とにかく弾きまくりのジョニーが思う存分に楽しめる。アルバム「Progressive Blues Experiment」からの選曲が4曲ほどあって、まさにあのスタジオ盤の雰囲気をそのままステージで再現している様子が分かる。既にセカンド・ウィンターを持ってても買う価値のある作品だ。
Still Alive And Well
1973年作品。いろいろ好みはあろうと思うけど、ロックに寄ったジョニーの作品中で一番良いと思われるアルバムだ。ヘロイン中毒で2年間のブランクの後に発表された故のタイトルが付けられてるが、そのタイトルがまたカッコイイではないか。私としてはそのタイトル・チューンの「Still Alive And Well」が気に入っている。
ロックに寄っていた時期の作品なので全般的にブルース色は薄く、そういう意味では好みは分かれる所だろうが、ジョニーのロック期に於ける最高作と云っても良いような気がする。
プロデューサーはリック・デリンジャーで、プロデュースばかりでなく八面六臂の大活躍をしてて、ペダル・スティールまで聞かせてくれるし、あのトッド・ラングレンの参加興味深い。
コロンビア/レガシーのCDには未発表のボーナス・トラックが2曲収録されている。

Saints & Sinners
1974年作品。プロデュースは前作に続いてリック・デリンジャー。
前作の勢いを得て製作されたアルバムと云いたい所だが、低調な作品だ。
ブルース色は前作よりも更に薄く、かろうじて7曲目の「Riot In Cell Block #9」でブルースを感じられるが、こういう路線が後のブルース一直線にジョニーを駆り立てる原動力になったのかもしれない。
ジョニーのアルバムには大抵1曲位バラードが収められてるが、このアルバムでもオリジナル作の「Hurtin' So Bad」がなかなか良くて、シャウトするジョニーも良いが、こういう趣の曲を歌える人はなかなかいないものだ。
そしてジョニーお気に入りのストーンズ作品(Stary Cat Blues)がここにも1曲収められている。
前作同様コロンビア/レガシーのCDでは1曲の未発表ボーナス・トラックが付いている。
John Dawson WinterV
1974年作品。
プロデューサーがリック・デリンジャーからシェリー・ヤクスに変わったせいかどうか分からないが、サウンドも前作までとは違う雰囲気だ。
何よりも1曲目からジョニー流ロックン・ロールに仕上げたジョン・レノン作品の「ロックン・ロール・ピープル」が快調だ。1曲目から弾きまくりジョニーが全開で、このアルバムが発売された当時は久々に元気なジョニーを聞いた感じがしたものだ。
この作品の後にジョニーは2枚のライブ・アルバムをリリースするが、スタジオ盤ではこのアルバムが最後のロックン・ロール路線作品で、この後ブルースまっしぐらのジョニーが復活するのだ。
だがこのアルバムも決して悪いワケではなくて、ロックン・ロール路線の中では比較的気に入っている作品だ。ジョニーのオリジナル「Strangers」はかなり良いし、ホーンが入った曲があるのも私好みだ。

Nothin' But The Blues
1977年作品
久々にジョニーがブルースに帰ってきた嬉しい作品。
スタジオ作としては1970年の「セカンド・ウィンター」以来の、セルフ・プロデュースだ。
「セカンド・ウィンター」以降も他人との共同プロデュース作品はあったが、単独プロデュースは久しぶりの事で、それ故かブルース臭タップリの好作品になった。そういえばジャズのハーブ・エリスの作品にもこれと同様のタイトルが付けられた作品があったけど、このタイトルを付けられた作品は期待を裏切らないようだ。
この年のジョニーはマディ・ウォーターズの「Hard Again」に参加しており、この時とほぼ同じメンバーがバックを支えているのが本作品。
まるで今までロックン・ロールに寄っていたウサを晴らすかの如く弾きまくってるジョニーは、正に「帰ってきた」という形容がピッタリ。
私のベスト・トラックはA-4の「Everybody's Blues」で、こういったスロー・ブルースでのジョニーはやっぱり格別だ。
全9曲中8曲がジョニー作品。余談だけどジャケットもカッコイイ。


White, Hot & Blue
1978年作品
前作に続いてジョニーのセルフ・プロデュース。
前作で完全にブルースに回帰かと思われたが、今作はややロックに引き戻された感じで、メンバーも刷新され心機一転という事か。
しかし、過去のロック寄り作品とは全く違う仕上がりで、やっぱり基本はブルースなので安心して聞ける。1曲目の良く歌うスライド・ギターをなどは久しぶりに聞くジョニー節という感じがして当時は嬉しかった記憶がある。
私のベスト・トラックは3曲目の「Divin' Duck」だ。アップテンポのスリー・コードにジョニーの良く歌うギターが心地良い。単純なスリー・コードなのにややポップな味わいを感じるのは何故か?
また、ここでハープを吹いているパット・ラムジーが素晴らしい。特にスロー・ナンバーの「Last Night」での太くて火が出るようなプレイは特筆物。
Guitar Slinger
1984年作品
このアルバム・ジャケットを初めて見た時の印象は音楽とは全く関係ない「ジョニーって痩せてるんだなぁ」という事。病気のせいなのだろうか?と全く関係ない事を考えてしまった。
内容はブルースまっしぐらの快感。
前作まではブルー・スカイ・レーベルだったけど今作からアリゲイターに移籍し、バックのメンバーも刷新。前作でのバックのメンバーはロック畑の人達だったから当然音にもそういう雰囲気が出ていたが、今作は全面的にブルースに移行しようとする過渡的な作品に聞こえる。
しかし個人的には好きなアルバムで、特にB面のスロー・ブルース「I Smell Trouble」から、ジョニーのギターが炸裂する「Lights Out」、そしてメロディが美しい「Kiss Tomorrow Goodbye」の怒濤の3連発にはコーフンさせられる。

ジョニーのオリジナル収録ナシ、しかし気合いのカバー10曲は聴き応え充分。
3rd Degree
1986年作品、アリゲイターでのラスト作。ジョニーとディック・シャーマンの共同プロデュース。
とにかく弾きまくる。1曲目から全開のジョニー節満載アルバムで、個人的にはかなり好きな作品だ。何曲かでトミー・シャノンとアンクル・ジョン・ターナーが参加し、ドクター・ジョンの参加曲も有り。そのドクター・ジョン参加の「Love, Life and Money」がダントツに好き。歌詞の内容と共に何度聞いても泣かされるし、ジョニーの歌もヨロシ、ギターも良く歌う。因みにこの曲は映像で出てる「Pieces & Bits」に収録のテイクも涙モノの必聴作品だ。
またアップ・テンポのフレディ・キング・ナンバー「See See Baby」でのギター・プレイはこのアルバムの白眉だと思う。溢れ出るフレーズはフラット・ピックでは不可能で、サム・ピックならではの音だと思われる。
全体的にギターの音がソリッドなのも私の好みに合う。

ジョニー・ファンなら持つべし。
Let Me In
1991年作品
プロデュースはディック・シャーマンとジョニーの共同になるポイント・ブランク移籍第一弾。
素晴らしい出来。60年代後半にデビューして20余年にして衰える事を知らない、この疾走ぶりが嬉しい。いろいろ賛否もあるかと思うがジョニーのキャリアの上で今作と次作のポイント・ブランクに於ける2連発は最高の作品だ。
徹頭徹尾ブルースを歌い弾きまくる。これがジョニーの真髄だ。
全13曲中ジョニーのオリジナルは2曲だけ。どれも素晴らしいが何曲かある演奏時間3分足らずのアップ・テンポ・ナンバーが特に良い。とはいえジョニーのスライドが良く歌うスロー・ブルースにはやっぱり震える。

このアルバムで特徴的なのはどれも演奏時間が短めであるという事。
最長で6分強。後は3分〜4分程度の長さが多く密度の濃い演奏がてんこ盛りだ。
未所持の人は直ちに買うべし。

“hey, where's your brothers?”
1992年作品。
プロデュースは前作と同じクレジット。
前作同様、絶好調ジョニーを持続。徹頭徹尾歌い弾きまくる。
全14曲収録。ジョニーのオリジナルは4曲。1曲目、快調に飛ばす「Johnny Guitar」はまるで自身のテーマのようだし、弟のエドガーが参加した「Please Come Home For Christmas」などは非常に私好みで、ロック界広しと言えどもこういう曲をそれらしくこなせるプレイヤーはそう多くはいない。しかしここでも脳天を打ち抜かれるのはスロー・ブルースの「You Keep Sayin' That You're Leavin'」で、ホントこういう曲でのジョニーはカッコイイ。
もともとスロー・ブルースが好きな私はこういう曲では無条件に体が反応してしまう。そして9曲目「Sick And Tired」での湧き出るようなフレーズの嵐、恐るべしジョニー。

前作「Let Me In」とペアで持つべし。