イエス・ミュージックの夜 Vol.1
アンダーソン/ブラッフォード/ウェイクマン/ハウ

01 Opening
02 Jon Anderson-Solo:Time And A Word
  〜Owner Of Lonely Heart
  〜Teakbois
  〜Time And A Word
03 Steve How-Solo:The Clap
04 Steve How-Solo:Mood For A Day
05 Rick Wakeman-Solo:Madrigal
  〜Gone But Not Forgotten
  〜Catherine Parr
  〜Merlin The Magician
06 Long Distance Runaround-Bill Bruford-Solo
07 Birthright
08 And You & I
09 I've Seen All Good People
10 Close To The Edge
DVD作品
COBY 90052
1989年9月アメリカ・カリフォルニアにて収録


イエスというバンドは長きにわたって一線で活躍している稀有なバンドだが、その構成メンバーの変遷は激しい。
私のように全盛期のイエスを体験してきた世代にとっては、やはり往年のメンバーでの演奏が耳に馴染むようだ。
「イエス・ミュージックの夜」はそんな変遷の過程で記録された紛れもなくイエスのライブだ。
紆余曲折あってこの時期のこのメンバーはイエスを名乗れずにいたワケだがメンバーの名前をみれば一目瞭然、これをイエスと言わずして何というのかとも思うのだが、この辺の経緯はピンク・フロイドと似ている。
残念ながらベースのクリス・スクワイヤはこのメンバーに名を連ねていないが、他のメンバーは正しくイエスを名乗るのに最も相応しい面々だ。
この映像が記録されたのは1989年の事だからもう15年も前の演奏という事になる。
しかしDVD化された本作品は意外なほど映像もキレイで、メンバーもそこそこに若さを保っている時期で、なかなか密度の濃い演奏が楽しめる作品になっている。
イエスといえばピンク・フロイドと並んでプログレッシブ・ロックの雄と見なされているワケだが、他のバンドとは一線を引いた大きな個性があるように思う。
その個性を際だたせているのは骨太の男っぽいサウンドだ。
非常に硬派な音だと思う。
スティーブ・ハウのギターに張られた太い弦に象徴されるように、彼らの出す音は硬質でありながらプログレッシブ・ロックにありがちな冷たさをあまり感じない。
複雑な曲構成に変幻自在のリズム。そして難解な歌詞といえばその先は想像に難くないがそういう予想をすべて裏切ってくれるのがイエスだと思う。
もちろん予想に違わず冗長で退屈だと思われる楽曲も個人的にはあるが、それはどんなに優れたバンドや音楽家にも有り得る事だ。
少なくても私が好きなイエスの音楽には複雑な曲構成や多彩なリズム、そして変拍子に彩られた親しみやすい歌があるのだ。
そこが私にとってのイエスの最大の魅力だ。
もちろん各メンバーの卓越した演奏能力については今更言うことはあるまい。

前置きが長くなってしまったが、そんなイエスの魅力を楽しめる作品のひとつが「イエス・ミュージックの夜」という事になる。
この作品の冒頭部分はメンバーの顔見せ興行的な色彩が濃い。
まずジョン・アンダーソンが何曲かをメドレーで歌うのだが、改めてイエスが残した楽曲の良さを認識してしまう。
殆どギター1本だけをバックに歌うのだが、これだけで掴みは充分で早々にイエスのステージに引き込まれてしまう。
ジョン・アンダーソンの歌が終わるとスティーブ・ハウの登場になるワケだが、残念ながらここでのスティーブのプレイには精彩がない。
チェット・アトキンスやレス・ポールなどのギタリストに影響を受けたというのがスティーブのギターのそもそもの出発点だったようで、ここでもチェット・アトキンスなどの影響を垣間見る事が出来るが、どうした事か精彩に欠ける演奏だ。
他の曲でエレキ・ギターを弾いている時にはあまりそういう感じはしないのだが、このソロ・プレイはどうも良くない、という事はスティーブは基本的にエレキ・ギター・プレイヤーという事なのかもしれない。
「ギターの鬼」とも言える形相でギターを弾きまくるスティーブだが、ソロ・プレイでの演奏はやや残念な結果だ。
続くリック・ウエイクマンのソロはなかなか良い出来だ。
超絶技巧的な早弾きプレイをする前には指慣らしともいえるパフォーマンスを見せるご愛敬も微笑ましい。
個人的にちょっと残念なのは、いつものように多くのキーボードを自分の周囲に並べて変幻自在に演奏しているリックが、ハモンドを演奏する機会が少ない事だ。
これはリック・ウエイクマンに限った事ではないが、近年ハモンド・オルガンを使って魅力的なプレイを聞かせるプレイヤーが少なくて、ハモンド好きな私には残念だ。
だがここで聞けるソロ・プレイは一聴の価値があり、キース・エマーソンや他のキーボード・プレイヤーとは違う華やかさを持ったプレイが聞ける
続く「Long Distance Runaround」では、ビル・ブラッフォードのドラム・ソロが聞けるのだが、多くのファンが残念に思ったのはここで使っているタイコがエレドラだという事だ。
ビル・ブラッフォードのソロが聞けるだけでもファンには喜びだが、ここは普通のドラム・セットでのプレイを聞きたかったところだ。
こうして顔見せ興行が終わり、通常の演奏に入っていくのだが改めて思うのは楽曲の良さだ。
口ずさむ事が出来るメロディを持った曲というのは良いもので、そういうキャッチな部分或いはポップな部分こそイエスが他のプログレ・バンドと一線を引いた最も大きな部分だったのではないか。
正直に言って往年の時と全く変わらないとは言い難い演奏ではあるが、それはかなり高いレベルでの話で、逆に言えば往年と同じ演奏が出来るワケがないとも言えるのだ。
このVol.1はイエスの傑作、いやロック史に残る傑作となった「危機」で幕を閉じるのだが、この曲にしても往年の輝きは失っていない。
困るのはこの曲を聞き出すと最後まで聞かないと気が済まないという事だ。
20分近くあるこの曲は初めて聞いてからもう30年もの歳月が過ぎたというのにまったく飽きる事なく、今でも楽しんで聞けるというのはスゴイ事だと思う。
それが本物の証なのだろう。
それにしてもあの頃のロック・ミュージシャン、そして彼らが作り出す音楽はカッコ良かったと思わせてくれる作品だ。