Swing West!
Vol.2 Guitar Slingers

01 Little Rock Getaway(Jimmy Bryant)
02 Champagne(Merle Haggard & The Strangers)
03 Cannonball Rag(Merle Travis)
04 Chicken Reel(Les Paul)
05 Wildwood Flower(Hank Thompson & His BrazosValley Boys
                With Merle Travis)
06 Fool Such Us I (Tut Taylor with Clarence White)
07 Fire On The Strings(Joe Maphis
08 T-Bone Rag(Speedy West&Jimmy Bryant)
09 Merle's Boogie Woogie(Merle Travis)
10 Caravan(Ferlin Husky)
11 A Smooth One(Roy Lanham)
12 Blast Off(Merle Travis & Joe Maphis)
13 Corn Pickin'(James Burton & Ralph Mooney)
14 12-String Spacial (Glen Campbell)
15 Dented Fender(Roy Clark)
16 Lover(Jimmy Bryant & Speedy West)
17 San Antonio Rose(Les Paul)
18 Alabama Jubilee(Roy Clark)
19 Swing High(Merle Haggard & The Strangers)
20 Water Baby Blues(Speedy West & Jimmy Bryant)

Razor & Tie
7930182198-2
1999年






どの程度の人気というか、需要があるのかよく分からないが都内の大きなCDショップなどに行くと、カントリー・インスト系のオムニバスCDがけっこう置いてあるのを見かける。
ナッシュビルのミュージシャンなどが集まって作ったアルバムが多く、古いカントリーソングをカバーしているケースが多い。
中には良い物もあるが、買っては裏切られた気分になる事の方が多いようだ。
しかし、「Swing West」に関してはそんな心配はいらない。
何て言ったてそれぞれ本家本元のミュージシャンが演奏しているのだから悪かろう筈がない。
昨今出回っているこういう類のCDの中では一押しの作品だ。
それでは何曲かピックアップして紹介したいと思う。

1曲目の「Little Rock Getaway」はジミー・ブライアント1967年の作品“The Fastest Guitar in The Country”(因みに邦題は“驚異のギター・サウンド”)に収められていた曲で、イントロのスローな出だしに一瞬面食らうが、次第にジミーらしい早弾きに変わってホッとするのである。
やっぱり早弾きを身上とするギター弾きはスローな演奏が苦手なのか、イントロ部に関しては何となくせっかちな感じがして今ひとつしっくりしない演奏だと思う。
2曲目は貴重なテイクだと思う。
これはマール・ハガード&ザ・ストレンジャースが1973年に発表した「Tottaly Instrumental」というアルバムに収められていた曲で、私が知る限り今のところCD化されていないと思う。
マール・ハガードはバック・オウエンスと共にベーカース・フィールド・サウンドの人気者で、多くのアルバムをリリースしているが、そのアルバムの中の何枚かはバックバンドのストレンジャースによるインストが多く含まれたもので、ギター・ファンにはロイ・ニコルスのテレキャスター・サウンドが聞ける作品として貴重なものなのだ。
その中の1曲がこうしてお目見えしたのは喜ばしい事だ。
5曲目はウエスタン・スイングの第一人者とも言われたハンク・トンプソン&ブラゾス・ヴァリー・ボーイズの演奏で、1962年の録音と思われる。
カントリー・ギターのファンにとって嬉しいのは若き日のマール・トラヴィスの演奏が聞ける事で、ギャロッピング・スタイルのマールの演奏が若々しくて楽しい。実はこの曲には別テイクもあって、そちらではマールのギターは更にソリッド感が増した感じでファンには必聴なのだが、何故か紹介されている事は少ないようだ。
因みに昨今何故か人気が高いマール・トラヴィスだが、彼のソロ・アルバムは当然の事として、ここに紹介したハンク・トンプソンのアルバムでも彼の若い頃の演奏がたくさん聞けてお薦めなのだ。(入手は難しいかもしれないけど・・・)

6曲目「Hool Such Us I」は美しいメロディを持った私が大好きな曲で、タット・テイラーとクレランス・ホワイトの演奏で聞かせてくれる。
クラレンス・ホワイトという人は一部に根強いファンがいるようで、発掘音源などがしばしば発表されているが、個人的にはそうした発掘音源よりも
歌伴で聞ける演奏の方が好みに合う。
8曲目の「T-Bone Rag」は何となくストレンジャースがやりそうな雰囲気のある曲だが、シャドウズなどにもこういった感じの曲があるから、意外にもシャドウズもこういう所からヒントを得ていたのかもしれない。
この曲元々はシングル盤としてのリリースだったようで、B面には「リバティ・ベル・ポルカ」という曲が収められていて、共にベア・ファミリーから出てる4枚組ボックスセットで聞く事が出来る。

このアルバムのハイライトで、しかも私が最も驚き、そして収穫だったのは10曲目のファーレン・ハスキーの「キャラバン」だった。
個人的にはキャラバンのカバーといえばベンチャーズの演奏が最高だと思っていたのだが、ここで聞ける演奏はかなり高ポイントのハイレベル演奏なのだ。
1965年ナッシュビル録音のこの演奏のメンバーがどういうメンツなのかペダル・スティールがカーリー・チャーカーではないかという事以外、このCDに詳しい記載はないが、ファーレン・ハスキー自身は何枚もアルバムを出しており私もほんの少し所有している。しかしここで聞けるようなギター・ファンが喜びそうな演奏はその片鱗さえ見せていない。
結局録音メンバー不明のままだが何故こんな素晴らしいテイクが今まで封印されていたのか、本当にアメリカ音楽というのはすごいと思う。
12曲目“Blast Off”はこのサイトでも既に紹介しているマール・トラヴィス&ジョー・メイフィスのデュオ・アルバムから。
マールとジョーの目まぐるしいまでのプレイが堪能できる1曲だ。

13曲目“Corn Pickin'”はジェームス・バートンとラルフ・ムーニーのアルバムから。ジェームス・バートンらしいギターが聞ける1曲だが、個人的にはやっぱり歌伴の時のプレイの方が素晴らしいと思う。
14曲目は歌手としての名声の方が一般的だが、実はギタリストとしても人気が高かったグレン・キャンベルの12ギターによる演奏。
フォーク・ブームの頃の演奏にはこの人が参加した録音も多かったようで、ザ・バーズの“ミスター・タンブリンマン”などもそうだったらしい。
これは1963年の録音だが、この2年後キャンベルは「ディラン・ジャズ」というボブ・ディランに題材を求めたアルバムを出しており、この作品にはジム・ホーンやハル・ブレインが参加しているのだが、残念ながら私は未聴でずっと探し求めているアルバムなのだ。

15の“Dented Fender”はロイ・クラーク1961年の録音。
この曲は1999年にCD化された「The Lightning Fingers」というアルバムに収められていて、数多いロイのアルバムの中ではかなりポイントの高い作品だと思う。
このアルバムのジャケットにはジャズ・マスターを弾いているロイの姿が映っているが、そのサウンドも非常にフェンダーっぽい音で私好み。
エレキ・インストが好きな人には是非聞いてもらいたいアルバムだ。

16“Lover”はジミー・ブライアントとスピーディ・ウエストの演奏で1952年の録音だが今まで未発表だった曲。
ベア・ファミリーの4枚組ボックスには収録されているが、こうして埋もれていた演奏が世の中に出てくるのは有り難い事だ。
17“San Antonio Rose”はレス・ポールの1956年の演奏だが、いつものレス・ポール・スタイルとはちょっと趣がちがい、レコーディング操作による効果が強調されていなくて聞き易い。

19の“Swing High”は私のお気に入り曲。2曲目の“Champgne”同様マール・ハガード&ザ・ストレンジャースの演奏で「Totally Instrumental」に収録されている。ノーマン・ハムレットのペダル・スティールとロイ・ニコルスのギターが絶妙で、とっても格好いいインストだ。
こういう軽い感じのインストは前にも引き合いに出したシャドウズなんかが取り上げたら良い演奏をしそうで、ベンチャーズとは正反対の雰囲気の洒落た仕上がりになりそうで、是非とも聞いてみたい衝動にかられるのだ。

どうも日本ではカントリー・ミュージックは日陰者だが、素晴らしいインストが山ほど埋もれており、CD化されていない作品の方が圧倒的に多い。
しかしながらこうしたコンピ盤で少しずつ陽の目を見るようになって、大きなお店では店頭に並んでいるので入門用には好都合だ。
もしもこういうスタイルの音楽に興味があり、「どれを聞いたらいいか分からない」状態だったら、まず本作みたいなものから入門してもらうといいかもしれない。