Lenny Breau and Chet Atkins
STANDARD BRANDS

01 Batucada
02 Tenderly
03 Cattle Call
04 Taking A Chance On Love
05 Somebody'sKnockin'
06 This Can't Be Love
07 This Nearly Was Mine
08 Going Home
09 Polka Dots And Moonbeams
1979〜1981録音

1994CD復刻
ONE WAY RECORDS
OW29316

このアルバムは1979年から1981年にかけて録音されたものをまとめたもので、全編二人のギターだけで構成されている純然たるギター・アルバムだ。
レニー・ブローというギタリストに関しては人によって好みが色々と分かれるようで、何故か私の友人達の間ではこのアルバムあまり評判がヨロシクない。
だが私の中ではチェットのアルバムというよりも、高品質のギター・アルバムとしてかなり高い評価なのである。
チェットの他のアルバムに比べて、いかにもチェットらしいプレイが少ないという所に、チェットのファンから敬遠されがちな理由があるのかも知れないが、それでも尚、私は本作がハイ・グレードなギター・アルバムであると信じて疑わない。

今日のミュージック・シーンではアンプラグド流行りであるが、エレキ・ギター弾きがにわかにアコースティック・ギターを弾いた稚拙な音と違って、本作で聞ける音色は美しさに満ちている。
チェットを始めとするカントリー系ギタリストにとって、アコースティック・ギターでプレイする事は珍しい事でもなく、格別に“アンプラグド”なんて言葉を使って声高に叫ぶ必要などまったく無いのだ。
チェットがアコースティック・ギターを弾く場合、マーチンに代表されるようなスチール弦を張ったギターよりも、ナイロン弦を張ったいわゆるクラシック・ギターの方が圧倒的に多く、クラシックやフラメンコ以外で高い音楽性とテクニックが両立した美しい音を聞かせてくれる数少ない存在の一人かもしれない。
特に本作品の5や6で聞かせてくれるナイロン弦の美しい響きや力強さは、他のチェットのアルバムよりも勝っていると思わせる程だ。
もちろん過去の録音の中にもクラシック・ギターを使った作品はたくさんあって、演奏も良いものがある。
しかし、今聞いてみるとどうも音が良くないのだ。
“音が良くない”という事が即、音楽鑑賞の妨げになるものではないが、特にクラシック・ギター1本で録音されたデリケートな音の場合、余計なノイズは邪魔になる事の方が多い。
チェットが良い作品を量産した1950年代や1960年代に比べて、本作が録音された1980年頃はその録音技術に於いても格段の進歩を遂げており、鑑賞を妨げるようなノイズ等はほとんどない。
私自身この作品が録音された1980年頃がチェットのベストの時期だと思っている訳では決してないが、録音技術という側面も併せて考えた場合、演奏技術や表現力といったチェット自身と、録音技術というハード面が最高点に達した時期だったというのは間違いがないと思う。
そんなところも私が本作を推すひとつの理由である。
考えてみればこの頃がチェットが良かった最後の頃だったのではないかと思う。
本作リリースからつい最近まで約20年の間にチェットが出したアルバムは数多くあるが、年令のせいなのか円熟した技術がそうさせるのか定かではないが、プレイから力強さが失われ音楽的な冒険もしなくなってしまった。
もちろんミスター・ギターと云われるチェットの事であるから、それらのアルバムの中にも聞くべき作品はあるのだが往年の輝きはすでになく、本作や1980年に発表されたドク・ワトソンとの共演盤「リフレクションズ」あたりが、元気なチェットの最後であったような気がする。
本作のようなアルバム、即ち二人の巨人(天才)が対峙したようなケースでは、何となくチグハグな作品になってしまう事があるが、本作では互いのテクニックを見せびらかしたり、エゴを張るというような気配はまったく見られず、終始和やかな雰囲気に満ちている。
ギターの音の良さもさることながら、そんなリラックス・ムードの中で卓越した技術が聞けるというのが本作の最大の魅力なのかも知れない。
残念な事にレニー・ブローは1984年に他殺の水死体で発見されるという不可解な死を遂げたが、その死に様までもが天才の轍を踏襲しているようにさえ感じられる逸材であった。