スティーヴィー・レイ・ヴォーン
アンド・ダブル・トラブル

ライブ・アット・エル・モカンボ

01 Testify
02 So Excited
03 Voodoo Chile
04 Pride and Joy
05 Tell Me
06 Mary Had A Little Lamb
07 Texas Flood
08 Love Struck Baby
09 Hug You Squeeze You
10 Third Stone From The Sun
11 Lenny
12 Wham
このテキストはレーザー・ディスク作品を参考にしています。
1991年作品(1983年収録)
Epic/Sony Records
ESLU 107


1990年に急逝したスティーヴィー・レイ・ヴォーンはその死後かなり多くのCDや映像が出回った。音だけに関してベスト作品を挙げれば迷わずにソロ・デビュー作の「テキサス・フラッド」(1983)を第一に推挙する人は多いだろう。
私もその選択に一票を投じる人間であるが、映像だったら断じて本作品を挙げる人が多いのではないかと思う。
ある年代のロックファンにとって1980年代というのは全く不毛で、新しいものに出会えるチャンスは皆無といって良く、もっぱら旧作を掘り返しているような時代だった。
ある年代のロックファンというのは1960年代末から1970年代初めにかけての怒濤のロックシーンを経験した人達の事で、そういうリスナーは少なからずブルースというものに愛着を持った人が多かったのだ。
だからスティーヴィー・レイ・ヴォーンが「テキサス・フラッド」を引っ提げて登場した時には狂喜した人も多く、それはまた久々に聞く本格を感じさせるギター弾きであったのだ。
前出のソロ・デビュー作「テキサス・フラッド」は1983年で、本作品も同年にカナダのトロントにあるクラブ、「エル・モカンボ」で収録されたものであり、共に熱気に溢れたワイルドなプレイが堪能出来る。
正味7年程のメジャー活動はあまりに短か過ぎるが、その分密度の濃い活動をしたようにも思える。
いくつか残された彼の映像作品を見てみると、晩年のそれはかなり角の取れた演奏になっている。
まだ円熟するには早過ぎる年齢だったが、他の多くのミュージシャンがそうであるように、スティーヴィー・レイ・ヴォーンの晩年の演奏も、初期の戦慄さえ感じられる荒々しさは影を潜めてしまっている。
個人的な好みの問題かも知れないが、この手のギタリストは年齢を重ねて丸くなっては面白味がない。
そういう意味で本作に残されたスティーヴィー・レイの演奏は彼の最高のパフォーマンスを記録したものだと言える素晴らしい内容だ。

彼はしばしばジミ・ヘンドリックス・ナンバーを演奏しているが、本作でもライブでは定番になった「Voodoo Chile」を演奏している。
ジミのフォロワーはジミの死後30年以上を過ぎた今日でも後を絶たないが、その中でも最も優れていたのはやはりスティーヴィー・レイ・ヴォーンだったと言えるだろう。
一時期ロビン・トロワーもジミのフォロワーであるような冠を付けられた事があったし、ランディ・ハンセンなんていうソックリさんまで出現したが、線の細い演奏は凡そジミとはかけ離れたものだった。
そこへ行くとスティーヴィー・レイ・ヴォーンは決してジミの演奏を完全コピーしようというスタンスではなく、自分のものとして演奏し、そしてジミらしい空間を具現化して見せた最初で最後のギタリストであった。
この作品で見せるスティーヴィー・レイのパフォーマンスはもちろんジミのそれとは性格を異にするものだが、骨太なワイルドさという点では共通しているものがある。
「Voodoo Chile」以外の演奏曲は後々までステージで好んで演奏された馴染み深い曲が並んでいるが、どの曲の演奏もクオリティが高くこの当時の彼の充実ぶりが窺える。
ファースト・アルバムのリリースと、このライブ収録とは時期的に近かったせいもあるが、ここで演奏された曲はこの後長く演奏され続け、それはいみじくもファースト・アルバムが彼自身にも大きなインパクトを与えたという事なのではないだろうか。
中でもファースト・アルバムのタイトル曲でもある「テキサス・フラッド」の出来映えは他のどのテキサス・フラッドよりも良い。
彼が残した数あるスロー・ブルースの中で本テイクがいちばん良いと私は思う。
曲後に「これがテキサス・ブルースだ」と語っている所をみると、彼にもそれなりの思い入れがある曲なのかもしれないが、一刀入魂の鬼気迫るプレイはスティーヴィー・レイの本領発揮で素晴らしい。

残念なのはリズム隊が脆弱な事。
彼は長くこのメンバーと行動を共にしたが、リズム隊に対する不満はなかったのだろうか。
ベースのトミー・シャノンは100万ドルのブルース・ギターとしてセンセーションを巻き起こした事があるジョニー・ウィンターのバックを務めた人であり、キャリアは長いもののどうもスッキリしない演奏だ。
スティーヴィー・レイ・ヴォーンのギターを引き立たせる為にはこれ位でちょうど良いとも言えるが、メンバー間の息詰まるようなバトルは到底望めず、バンドとしての面白さはない。
もうひとつ、ファースト・アルバムのラストを飾った「レニー」はブルース・ギタリスト:スティーヴィー・レイ・ヴォーンのもうひとつの面を見せてくれて人気が高い意欲作だが、ライブでは冗長になる傾向が強い。
ストラトのクリア・トーンを活かした演奏は私も好きなのだが、ライブでは思い入れタップリで長過ぎ、散漫になるのが欠点だ。
あの曲の演奏時間はスタジオ録音位がちょうど良いと私は思う。
だが冒頭にも述べたようにこの映像作品がスティーヴィー・レイ・ヴォーンの最も熱気に満ちた最高の一時を捉えているのは事実で、ブルース系ロックが好きな人には是非オススメしたい。