Chet Atkins
solo flights

01 Drive-In
02 Three Little Words
03 Autumn Leaves
04 Chet's Tune
05 Mercy, Mercy, Mercy
06 Cheek to Cheek
07 Cindy, Oh Cindy
08 When You Wish Upon a Star
09 Music to Watch Girls By
10 Choro da Saudade
11 Gonna Get Along Without You Now
12 Georgy Girl
1968年作品
RCA LSP-3922
Recording Date: Nov. 28, 1967-9:30AM

これは1968年の作品でチェットが勢いに乗っていた頃の演奏が楽しめるアルバムだ。
特に1950年代から1960年代の長きにわたってチェットは良いアルバムを量産したが、この「Solo Flights」の前後にも「Class Guitar」(67')、「Chet」(67')、「Hometown Guitar」(68')など聞き応えのある作品を多く発表していて脂が乗った時期だったと云えると思う。
第1にアルバムタイトルが良いではないか。
「ソロ・フライト」というと、私はどうしてもジャズ・ギタリストのチャーリー・クリスチャンがベニー・グッドマン楽団でプレイしたあの名演を思い出してしまうのだが、そういう刷り込みが意識の中にあるせいか、チェットのこのアルバムに対する気持ちにも他の作品とは違う印象がある。
ジャケットもなかなか良い。
とはいっても特別にデザインが良いジャケットというワケでもないのだが、アルバム・タイトルを考えると一羽の鳥の飛翔をとらえた写真は、チェットのギター・スタイルとオーバーラップするようで、理に適ったデザインだと思うのだ。
収録曲はヘタをするとムード・ミュージックになってしまいそうな選曲が多く、事実チェットはかなりムード・ミュージックに寄ったアプローチを見せている作品もあるが、この作品ではまったくそんな事はなく安心してチェットのギターを聞く事が出来る。
だがこのアルバムがすべてのチェット・ファンに受け入れられるかというと、少々の疑問を感じるのだ。
特にチェットのギターからカントリーのフレイバーを感じ取ろうとする向きには好まれないかもしれない。
他のアルバムでのあまりにもムード・ミュージックっぽい、単にメロディーを弾いただけのような作品は私だって敬遠したくなるが、だからといってカントリーの香りがしないチェットは聞きたくないという事はまったくないのだ。
前述のようにこの作品に収められた曲の中にもムード・ミュージックの分野で人気が高い曲が含まれているが、どの曲も見事にチェットのギター・ミュージックになってしまっている。
1曲目の「Drive-In」はチェットのブルースともいえる味わいの演奏で、このアルバムの中ではちょっと雰囲気の違う作品といえるが、ブルース専門?以外の人がやるブルースっぽい演奏というのも私は好きで面白いものだ。
曲の半ばで中途半端なオルガンのソロが聞かれるのだが、これは一体どうした事かとこの曲を聞く度に思うのだ。
オルガンのソロが始まってもチェットのギター音量が下がるワケでもオルガンの音量が上がるワケでもなく、チェットの「バッキングのバック?」で細々とオルガンの音が聞こえるという状態なのだ。
何故こんな状態のままリリースされてしまったのか分からないが、チェットのギターさえ聞ければ良いという判断でもあったのだろうか。
ほとんどのチェット・ファンが安心して聞けるのが2曲目の「Three Little Words」だろう。
実は私自身もこういうのが好きで、やはりチェットのプレイを特徴付ける完成されたギャロッピング・スタイルというのはどのアルバムにも1曲は収録されていて欲しいと思う。
しかし、このアルバムの中でのベストを1曲挙げろと云われたら、私は3曲目の「Autumn Leaves」だ。
「枯葉よー」の歌声で日本でも有名な秋の定番曲だ。
どこか他のところでも述べた気がするが、こういう演奏を聞いているとしみじみとチェットが好きで良かった思ってしまう。
曲が良いのはもちろんだが、チェットがやると誰でも知っているような有名なメロディを「あなたはこんな風に料理しますか?」というような新鮮な喜びを与えられてしまうのだ。
この曲でのチェットのギター・プレイが他の多くの演奏に比べて抜きん出ているとは思わないが、美しいメロディラインの取り方にはチェットの特徴が良く出ていると思うし、やっぱりチェットさんにはギャロッピングなのだと納得させられてしまうのだ。
他の収録曲はディズニー映画「ピノキオ」からハーモニクスが美しいB-2「When You Wish Upon a Star」や、アンディ・ウィリアムス1967年の大ヒット「恋はリズムに乗せて」の邦題で知られるB-3「Music to Watch Girls By」、そして1960年代半ばに登場したオーストラリアのフォーク・ロック・グループ:シーカーズのヒット曲「Georgy Girl」などお馴染みの曲が多い。
今となってはナツメロの雰囲気ではあるが、どれもチェットならではの演奏である事は云うまでもない。
A面ではエレキ・ギターを使い、B面ではガット・ギターを使うという構成でまとめられたアルバムであるが、エレキ・ギターの使用についてジャケットの裏に面白い記述がある。
非常に短い文である上に、私の英語読解力に難があるので適当に流して欲しいのだが、「Side-1ではニュー・サウンドのギターをフューチャーしている。それは"Octbass Guitar" といってチェットとジミー・ウェブスターが開発したもので、A線とE線をベース・ギター弦に交換する。その結果レンジが拡大してフィンガー・スタイルの曲では、あたかもベースとギターのデュエットのようである」というのがその大筋であるが、確かに聞いてみれば低音はいつもと違う響きだ。
例えば「枯葉」などを聞いていると、確かに低音がいつもより厚い気がするのだが、しかしそれによって良くなったかというとそうでもない気がするのだ。
低音の締まりが今ひとつ無くて、もっとピシッと締まりのある音の方が少なくても私の好みではある。
しかし、そんな事はさておき、このアルバムが1968年のチェットの姿を捉えたものである事は間違いがない事実だし、ファンなら是非持っていたい1枚であるのだが、残念ながら2002年1月現在、CD化はされていないようだ。