Deep Purple
Scandinavian Nights

scandinaviannights DISC−1
1.Wring That Neck
2.Speed King
3.Into The Fire
4.Paint It Black

DISC−2
1.Mandrake Root
2.Child In Time
3.Black Night

このスカンジナヴィアンナイトと名付けられたストックホルムでの1970年のライブはファンの間ではブートで長い間親しまれていた音源だ。
スウェーデンのラジオ局がオンエアー用として録音したという事なので、ブートとして聞いてみれば決して悪い音ではないのだが、この音源のオフィシャル盤が出ると聞いたときには、もっと良い音で聞けるものだと早合点して喜んでしまったものだ。
しかし、せっかくオフィシャル盤で発売された本作も音のグレードはブート並で、ファンをがっかりさせた。
しかし、内容は圧倒的にイイ。
音質の悪さを差し引いても充分にオツリがくる程だ。
もちろん名盤として名高い「ライブ・イン・ジャパン」には一歩譲るが、上り調子のバンドのエネルギーを感じる事が出来る熱い演奏が続き、思わず引き込まれてしまう。
どこかの雑誌のレコード評で、本作がひどく酷評されているのを読んだ事があるが、その評論家が何を根拠に酷評したのか理解に苦しむ。
DISC-1の1は32分もあるロング・バージョンで、リッチーとジョンが長尺のソロを繰り広げているが、出来としては「BBC IN CONCERT」に収録されているテイクの方が録音の状態も演奏もずっといい。
このアルバムでいいのは「SPEED KING」や「BLACK NIGHT」といったお馴染みのナンバーなのだが、それにしてもやたらにソロが長いのだ。
ブラック・ナイトにしてもスピード・キングにしてもリッチーは思う存分に弾きまくっており、最近のリッチーに不満を感じているファンもこれを聞けば一発で機嫌が直るというものだ。
私のようにリアルタイムでパープルを聞いてきた人間にとっては、やはりこの辺から72年、73年あたりまでがいちばん好きなのであり、リッチーのアグレッシブなソロに「やっぱりリッチーはこうでなくちゃ」と、妙に納得してしまうのである。
若いリッチー・ファンにはレインボウ時代のリッチーをベストとする人もいるが、私たちにとってレインボウというのは刺身のツマみたいなものだと云ったら言い過ぎだろうか。
もちろん私だってリッチーが来日すると聞けば可能な限り出掛けたから、レインボウのコンサートにも行っている。
特にレインボウの初来日となった1976年のコンサートは迫力満点で凄かったし、とにかくこの頃はリッチーに恋い焦がれていたので、大いに感動して帰ってきた。
1995年のレインボウの来日の時にも行って、1991年のパープルとしての来日時よりもはるかに素晴らしい演奏を聞いて満足して家路についた。
しかし、残念な事にバックを支えるミュージシャンの力量がパープルとは圧倒的に違うのだ。
もちろんパープルの主軸はリッチーであり、その事に反論を唱える人はいないと思う。
だが残された名演の数々はジョンを始めとする4人の強力なバックアップなしには考えられないのだ。
イアン・ギランはパープルに何度も入脱退を繰り返しているが、その事を振り返って「パープルに戻ってくると、パープルのメンバーの技術の高さを思い知る」という意味の事を発言しているが、それは他のバンドを経験してみて初めて実感できるものなのだろう。
イアン・ギランの言葉を借りるまでもなく、パープルの演奏レベルの高さは残された録音を聞けば一目瞭然、いや一聴瞭然であろう。
いろいろな所で云われている事ではあるが、70年から73年頃にかけてのパープルはまさに神がかり的であり、バンド全体としてパープルを越えたバンドを私は知らない。
例えばギターだけに関して云えば、リッチーよりも早く弾くギタリストはたくさん出てきて、リッチーの早さも今や驚くべきスピードではない。
しかし、リッチーのように緩急自在にして、静と動を巧みに使い分けるギタリストは殆ど聞いた事がない。
ギターがロックの主人公であり得なくなってしまった今の現状を考えれば仕方がない事なのかも知れないが、ギター好きにとっては淋しい現実だ。
日本に初めて来日した1972年頃のリッチーはフィード・バック奏法に凝っていたようで、ブラック・ナイトのソロになるとウィーンウィーンやり始めるので、弾きまくりを聞きたい私としてはこれが始まると閉口したものだ。その点ここに収録されているブラック・ナイトではそういう事はなく、流れるようなリッチーのソロが堪能できる。先にも述べたようにそのギター・ソロが長くて、ブラック・ナイトのライブとしてオフィシャル初お目見得となった日本公演のライブは4分50秒ほどで、本アルバムのテイクが6分54秒となっている。
約2分も長いワケで、その殆どはギター・ソロの長さによるものだ。
1970年の録音という事だからちょうど「IN ROCK」を発売した年であり、人気に火が付いた頃だからメンバーの気持ちも充実していたに違いない。
後年(特に再結成後)エゴのぶつかり合いによって生じたアンサンブルの悪さは、当然ここではまだ現れていなくて、リッチーも気持ちよく弾いているように聞こえる。
スピード・キングもいい。リッチーのギターはスタジオ録音のそれより歪みが少なくて、ここではむしろクリーンな音の印象さえ受ける。
このテイクもかなりの長尺だ。イン・ロックに収録のものが4分18秒。「IN CONCERT」として知られるBBCのライブが6分20秒であるから、本テイクの10分20秒というのがいかに長いかわかる。ここでも長さの原因になっているのはジョンとリッチーのソロであるから、インプロビゼイションが好きなファンは買わずにはいられないアルバムなのだ。
使っているギターはこの頃最もよく使っていた極太アームの付いた、黒ボディに貼りメイプルのストラトだろうか。
リッチーは時代によっていろいろなストラトを使っているが、個人的にはこの頃の音がいちばん好きだ。
ジョンとの掛け合いでもスタジオ録音のように音がコモっていなくて聞き易い。
例によってフロントのピックアップを使ってプレイしているようだが、トーンコントロールの絞りが浅かったのだろうか。かなり明快でストラトらしい音がしている。
それにしてもこの時代のリッチーのストラトは良い音がしている。初来日を果たした1972年頃もいい音ではあったが、またひと味違うこの時代の音をナマで聞いてみたかったと思う。
因みに1973年の来日、つまり武道館で例の暴動があった時だが、この時の音はまた前年とは違っていてかなりクリーンな音で淡々と演奏していた。この時の音源を使ったブートもあるが、そこには日本武道館内の空間をクリーンに響くリッチーの音が収録されている。
このブートで聞ける音は前年の来日時に収録された「LIVE IN JAPAN」の時とはかなり違う音なのだが、むしろこのブートに収録されている音の方がホンモノの音に近いのではないかと思う。私自身はストラトをフェンダーのツイン・リヴァーブにプラグ・インして使っていたので、マーシャルのアンプとストラトの組み合わせが実際にどんな音がするのかという事はよく分からないのだが、少なくとも「LIVE IN JAPAN」で聞けるようなまろやかな音にはならないと思う。
あのまろやかな音は録音後のスタジオ作業でああいう音にされたと思う。
しかし、何れにしてもリッチーのストラトが良い音を出しているのは事実であり、最近のレインボウの来日でもゾクリとするほどイイ音を出していたのが印象的だ。
話が逸れてしまったが、「Child In Time」や「Into The Fire」ももちろんいい。
このアルバムに収録されている「Child In Time」は、その演奏パターンが映像で発売されている「Machine Head LIVE 1972」に近くて、個人的には「LIVE IN JAPAN」のテイクよりも好きだ。
毎日同じパターンでの演奏は飽きるので数種類のパターンを用意しておき、その日の気分によってパターンを使い分けていたという事が、このテイクを聞くとよく分かる。
もちろんこの演奏も長くて17分25秒もあり、「LIVE IN JAPAN」の12分30秒や、「BBC IN CONCERT」の10分15秒を大きく上回る長さである。
ここでも弾きまくっているが、ソロの内容や密度という点をを考えると「LIVE IN JAPAN」の方がいいのかもしれない。
「INTO THE FIRE」は驚いた事に、ここで聞けるテイクがオフィシャル盤のライブとしては初お目見得なのである。オフィシャル以外ではBBC- Radio Tracksや、ドイツのライブがブートで出回っているが、この曲に関してはどこのライブも総じてヨイというのが私の印象だ。
言い換えれば曲を壊してしまうような要素が少ないという事なのかも知れない。
ブラック・ナイトのようにリズムに乗った勢いで暴走するという危険が少ないし、チャイルド・イン・タイムのようにきわどい線でのキメがないという事が幸いしているのかもしれない。
本作のテイクも例に洩れずなかなか良い出来だと思う。
相変わらずリッチーのギターは艶やかで鳴りがよく、間奏でのアームの使い方もこの頃ならではのものだ。
また、この時代のパープル・サウンドの特徴であるオルガンとギターのユニゾンが低域の厚みを増しており、ズッシリとした聴き応えが心地よい。
今までそれぞれの曲の演奏時間が長い長いと散々云ってきたが、トータル時間を計算したら108分位になり、これはアナログ時代だったら2枚組のLPにも収録不可能だったかもしれない長さである。
冒頭で述べた「Wring That Neck」が32分あり、「Mandrake Root」も28分の長さだ。
どんなに優れたミュージシャンでもあまりに長いソロでは集中力を欠いて散漫になったりするが、パープルとても決して例外ではないことがここではわかる。
しかし、ここに残された記録には1970年のピチピチの新鮮状態でプレイをするパープルのメンバーがいるのだ。
スタジオ録音の名作として「IN ROCK」や「MACHINE HEAD」があるが、ディープ・パープルというバンドの本質がライブにあるという事を考えると、「LIVE IN JAPAN」や本作のようなライブ盤の前ではその影がいささか薄くなってしまう感があるのは否めない。
どこかにまだこの頃の録音が残っていないのだろうか。
既発盤をリマスターするのもいいが、この頃のナマのパープルをもっともっと聞いてみたい。
概して安定期に入ってしまったロック・ミュージシャンというのは面白くないが、この時代のパープルはまさに上り坂を凄い勢いで上っているのだ。荒削りの部分もあるが、その演奏は非常に魅力に満ちている。
もしまだ本作を聞いたことがないディープ・パープル・ファンや初心者?がいたら是非聞いてもらいたい。
ここにはエネルギーに満ちてやる気満々のディープ・パープルの面々がいるのだ。