Roy Clark&Joe Pass
Play Hank Williams

01 Hey, Good Lookin'
02 I Can't Help It
03 Your Cheatin' Heart
04 Blues For Hank
05 Cold, Cold Heart
06 Jambalaya
07 Long Gone Lonesome Blues
08 Why Don't You Love Me
09 Honky Tonk Blues
10 There'll Be No Teardrops Tonight
11 I'll Never Get Out Of This World Alive
12 Kaw-Liga
1995年作品
RANWOOD RECORD (1014-2)

Roy Clark-Guitar
Joe Pass-Guitar
John Pisano-Rhythm Guitar
Jim Hughart-Bass
Colin Bailey-Drums


このアルバムは1995年にリリースされたもので、ジャズ界のヴァーチュオーゾ、ジョー・パスとカントリー界の職人ギタリスト、ロイ・クラークが共演した好ましいギター・アルバムだ。
とりわけてジョー・パスにとってはこの作品が彼の波乱に富んだ人生最後の仕事になってしまったワケで、結果的には素晴らしい遺産を私達ギター・ファンに残してくれたのである。
最初このアルバムの存在を知った時には、ジャズ・ギタリストとして高名だったジョーと、ずっとカントリー・サーキットで活躍してきたロイとの組み合わせが今ひとつ理解出来なかったのだが、聞いてみてその不安は拭い去る事が出来た。
過去を振り返ってみればロイはブルース・ギタリスト(かなりカントリー寄りだが)のゲイトマウス・ブラウンと共演したアルバムも作った事があり、それに比べれば今回の組み合わせの方がずっと理解し易いと思う。
基本的にここで聞けるジョーのプレイは、1973年に発表されてジャズ・ギター界に大きな話題を提供したジョーの出世アルバムでもあり、傑作としても名高い「ヴァーチュオーゾ」で聞けるそれに近い。
ジョーがソロを取るときはもちろんだが、ロイのバックに回っている時の変幻自在のコード・ワークやランニング・ベースを思わせる音使いは、ジャズとカントリーという垣根など全く感じさせない「ギター・ミュージック」に仕上がっている。
本作のライナー・ノートの中でジョー・パスは「私が最初に聞いたカントリー・ギタリストはチェット・アトキンスとロイ・クラークだった」と述懐したうえで、「私はチェット・アトキンスの正確さが好きだ」と述べている。
ジョー・パスのファンの間ではジョーの1番目のギター・ヒーローはジャンゴ・ラインハルトであるという事で認識されていると思うが、実はチェット・アトキンスなどからも多大なインスパイアを得たのではないかという気がする。
本作に収められた作品はバック・バンドを従えた5人編成で演奏されたものや、ロイとジョーにリズム・ギターを加えたギターのトリオ演奏などのパターンがあるが、個人的に聞いていて面白いのはギタリスト3人だけによる演奏だ。
こういうスタイルでは一際ジョー・パスの演奏が光る。
何せジャズのスタンダード曲の数々をギター1本のソロ演奏で仕上げた実力の持ち主であるから、これくらい「朝飯前」なのかもしれないが、カントリーのポップ・ソングをこんなカタチでギター曲にしてしまうワザは並のものではない。
ギターのテクニカルな面については私など語る資格も必要もないが、内包した音楽性には舌を巻かれる。
変な言い方になってしまうが、ちゃんと音楽を聞いていた人だという気がするのだ。
ちゃんと、ちゃんとのジョー・パスなのである。
このアルバムは「ハンク・ウィリアムス」の作品を二人のギタリストが演奏したものだが、1曲だけジョー・パスの作品が収められている。
4曲目の「Blues For Hank」だ。
ジョー・パスのギター1本だけで演奏されたハンクへの鎮魂歌であろうと思われるこの曲は、1973年の「ヴァーチュオーゾ」の再演を思わせる。
まったくカッコイイのである。
もともとブルースが好きな私としてはこういう演奏にも強く心を惹かれてしまうのだが、これがジョーの最晩年の演奏であるという事が尚更この演奏を感慨深いものにしている。
スタンダード・ナンバーを収録した「ヴァーチュオーゾ」のようなものより、個人的にはこういうポップな曲をやっているジョーの演奏をもっと聞いてみたかったと思わせられる演奏だ。
当たり前の事だがチェット・アトキンスなどのカントリー系ギタリストがやるソロ演奏とかなり趣が違い、ジャズ・ギタリストによるこういう試みをもっと聞いてみたい。
カーペンターズのヒットで広く一般に知られる事になった「ジャンバラヤ」もハンク・ウィリアムスの作品であり、ここで聞ける演奏もカッコイイ。
左チャンネルから聞こえるジョーのギターは、時にスインギーにロイの演奏を盛り立てるが、こういうモロにカントリー・ナンバーというタイプの曲では二人の対比が特に面白く、ロイはやっぱりカントリー屋さんなんだと感じられる。

一方のロイであるが、この人はボクサーとしてのキャリアを持つという変わった経歴があり、指を大切にするためにスポーツさえやらないというギタリストもいるのに、よりによってボクシングをやっていたというのだから驚く。
そんな事が影響を与えていたのか若い頃の彼は強引とも思える力強いプレイを聞かせてくれたが、1933年生まれのロイはもう70才近くになる年令であり、2000年にリリースされた最新ライブ・アルバム「Live at Billy Bob's Texas」を聞くと、プレイに往年の力強さは既に失われているようだ。
だが本作で聞ける二人の演奏は年令による衰えを感じさせる部分などまったくない。
先にも述べたが、このアルバムで取り上げられている楽曲はカントリー界の大ヒット・メーカー、「ハンク・ウィリアムス」の作品ばかりであり、二人の名演に楽曲の良さが加わったのであるから悪かろう筈がない。
ロギンス&メッシーナやロイ・ブキャナンなどにも取り上げられるなど、他のアーティストにも人気が高い曲「ヘイ・グッド・ルッキン」がこのアルバムのトップ・ナンバーだが、やや右に定位してロイ・クラークのギター、左にジョー・パス、そして中央にリズム・ギターのジョン・ピサノという布陣で、3本のギターのみによる演奏がカッコイイ。
曲自体が軽快なナンバーであるという事もあるのだろうが、ジャズ・ギター弾きのジョーのプレイも決して重くなる事なくしっかりカントリーしているのが嬉しい。
2曲目の「I Can't Help It」は前曲とは変わって、3人のギタリストにベースとタイコを加えた5人編成で演奏されており、ややジャズに寄った演奏でありながらとても聞き易く料理されている。
こういうスタイルの演奏ではさすがにジョー・パスの方がロイよりも手慣れているようで本領発揮といったところだ。
残念な事に今の若いカントリー・ファンの間ではハンク・ウィリアムスの人気は今ひとつのようだが、多くの歌手やグループがこの人の作品をカバーするなど、偉大なコンポーザーでもあるのだ。
このアルバムで聞ける曲でも彼の高い作曲能力の一端は感じてもらえると思うが、それらの曲をこうしてギター曲に料理してしまう二人のギタリストと、そういう事を可能にしてしまうアメリカ音楽産業の懐の深さも羨ましい事だ。
前述したように残念ながら偉大なギタリスト、ジョー・パスは1994年5月23日に60才代半ばという若さで死去してしまい、皮肉にも今紹介してきた本作品が彼のラスト作品になってしまった。
本作品は彼が長い間歩んできたジャズというカテゴリーとは異なる作品になったが、彼の記念碑的作品として高く評価されてよいものだと思う。


愛用のヘリテージ・ギターを抱えて
微笑んでいるこのジャケットは、2000
年にリリースされたロイの最新ライブ
盤。キャラバンのインストから始まる
このアルバムでは、モスコー・ナイト、
マラゲーニャ、ライダース・イン・ザ・ス
カイなど、ファンには馴染みの深い曲
が多く演奏されていたり、チェット風ギ
ャロッピング・スタイルもちょっと聞けた
りして楽しい。
だが本文の中でも述べたように往年
の力強さを知る人にとっては少し淋し
いかも。
こちらは動くジョー・パスを見る事が
できるDVD。
1987年・東京・五反田「簡易保険ホ
ール」での公演を収録したもの。
しっかりとジャズをやっているジョー
の在りし日の姿がたっぷりと見られ
る。映像はとてもきれいだし、ピータ
ーソンともども演奏も良い。
1曲目の軽快にスイングする「ケイク
ウォーク」のような曲も良いが、2曲
目の「ラブ・バラード」には泣かせら
れる。
ろくでもないCDが2800円もする事を
考えれば、このDVDの3800円という
のは格安だ。