マール・ハガード・ウィズ・ザ・ストレンジャーズ
サ・ファイティン・サイド・オブ・ミー

Side-A
01 Theme-Hammin' It Up
02 I Take A Lot Of PrideIn What I Am
03 Corrina Corrina
04 Every Fool Has A Rainbow
05 T.B. Blues
06 When Did Right Become Wrong
Side-B
01 Stealin' Corn
02 Harold's Super Service
03 Medley: Devil Woman/I'm Movin' On/Folsome Prison Blues
       Jackson/Orange Blossom Special/Love's Gonna Live Here
04 MC
05 Today I Started Loving You Again
06 Okie From Muskogee
07 The Fightin' Side Of Me
Capitol
CP-80066
1970年フィラデルフィア録音


ロイ・ニコルスという名のギター弾きを御存知だろうか。
このような事を冒頭で言わねばならないほど特に日本でのロイ・ニコルスの知名度は低い。
ロイ・ニコルスはカントリーの人気シンガー、マール・ハガード率いるストレンジャースのギタリストで、マールの歌伴はもとよりストレンジャースの単独アルバムでも魅力的なテレキャスター・サウンドを聞かせている人なのだ。
同じベーカーズフィールド・サウンドで名を挙げた先輩格のバック・オウエンス、そのバンドでギターを弾いていたドン・リッチは何かと話題に上ることも多いようだが、ロイ・ニコルスの名前を聞くことは皆無に近い。
テレキャスターを語るなら是非この人の名前も仲間に入れて頂きたいと思う。
ただ実際にはマール・ハガードの初期レコーディングに際してはギターにジェームス・バートンが起用されたりしたので、その分ロイの不利は拭えない。
しかしロイが残したプレイの数々は素晴らしく、ジェームス・バートンともドン・リッチとも違うテレキャスター・サウンドを是非知って欲しいものだと思う。

さてこのアルバムであるが、マール・ハガードと彼のバンド、ストレンジャーズが1970年にフィラデルフィアで録音したライブ盤だ。
マールはこの作品の前作:「OKIE FROM MUSKOGEE」(1969)もライブ盤で、2作連続でのライブ盤リリースだったわけだ。
バック・オウエンスもそうだが、マール・ハガードもとても良い曲を書く人で、このアルバムでもA-4の「Every Fool Has A Rainbow」など、バックのノーマン・ハムレットのペダル・スティールの絡みなどが歌を盛り上げ非常に心地良い。
このライブでは全般的にロイのギターが良く聞こえるが、何と言ってもハイライトはB-1の「Stealin' Corn」だろう。
この曲はストレンジャーズ名義のアルバム「Merle Haggard-Introducing My Friends THE STRANGERS」という作品のトップに収められていた曲で、マールが各メンバーの名前をコールし、コールされたプレイヤーが順に演奏を始めるというカッコイイ感じの曲で、このライブでも同じスタイルで演奏されている。
短い演奏時間だがロイの魅力は充分に発揮されており、聞かせるカントリー・インストとしてもっともっと評価して欲しい曲だ。
ロイのテレキャスター・サウンドは明らかにドン・リッチやジェームス・バートンのそれとは性質を異にするものだ。
言い方は悪いかも知れないがドン・リッチやジェームス・バートンというのは、何の小細工もなしに、テレキャスターというギターが持つ素性だけで勝負しているようなところがある。
まさにそれが彼らの魅力でもあるわけで、非常にアメリカ的な抜ける青空のようなサウンドをテレキャスターというギターから引き出した功績は大きいものがある。
しかしロイの音はそれとはちょっと違う。
もっと洗練されているのだ。
分かり易い比較で言うなら初期のフェンダーを使用していた時代のベンチャーズとシャドウズの違いだ。
かなり強引な比較だが、ロイのギターはどちらかといえばシャドウズっぽいのだ。
音色ばかりでなくプレイ、つまり音使いの面でもそういうことが言えると思う。
こういう音の違いを明確に文章にする術を私は持っていないのが非常に心苦しいが、この辺は是非一度聞いて頂きたいと思うのだ。

後半で聞ける物真似メドレーも非常に楽しい。
当代の人気カントリー・シンガー、マーティ・ロビンス、ハンク・スノウ、ジョニー・キャッシュ、そしてバック・オウエンスなどの物真似をするわけだが、このメドレーでの会場の盛り上がりが凄い。
私が驚いたのはマールがバック・オウエンスの物真似が上手い事。
バックのいつもテンションが高い歌とマールの落ち着いた歌声は一聴して正反対の性質を有しているように思われるが、ここで聞ける真似は非常に特長を掴んでいて笑ってしまうほど似ている。
残念ながらこの作品は現時点でCD化はされていないようだが、ごく稀に中古盤で見かけることもあり、見かけたらこれは「買い」だ。
値段もかなり安いはず。