Jerry Reed And Chet Atkins
ME AND CHET

01. JERRY'S BREAKDOWN
02. LIMEHOUSE BLUES
03. LIEBESTRAUM
04. SERENADE TO SUMMERTIME
05. NASHTOWN
06. MYSTERY TRAIN
07. THE MAD RUSSIAN
08. FLYING SOUTH
09. GOOD STUFF
10. ALL I EVER NEED IS YOU
11. I SAW THE LIGHT


BVCP7399
 (国内盤CD:BGMビクターから1995年8月23日発売)

オリジナルは1972年RCAよりリリース
  


チェットは他のギタリストとの共演アルバムを多数発表しているが、その中でもジェリー・リードはかなりお気に入りのようで全部で4枚の共演アルバムを残している。
このアルバムはジェリーとの共演アルバムとしてはセカンド・アルバムにあたり、1972年に発表されている。
1970年に発表されたジェリーとの共演ファースト・アルバムである「Me And Jerry」がグラミー賞の「ベスト・カントリー・インストゥルメンタル・パフォーマンス」で受賞したという事実なども、二人の共演盤が4作も作られたという事に影響を与えているのかもしれない。
だがそれ以上にチェットは若きジェリー(チェットとジェリーの年齢差は13才)から、自分にはない多くのものを吸収したようで、それがチェットのギタリストとしてのハートに火を付けて、多くの共演作を生んだというのが真相に近いのかも知れない。
1970年発表のジェリーとの共演1作目にあたる「Me And Jerry」がMe・・・・・つまりチェットが主役であったのに対し、2作目にあたる本作は「Me And Chet」とタイトルされており、つまりこの作品ではジェリー・リードが主役になっているのだ。
云ってみれば前作と本作の2作品が対になって初めてひとつの作品として完成を見たといえるだろう。
もうずいぶん昔の話になるが、私がジェリーとチェットの共演盤を初めて聞いたのは本作が初めてであり、その時にアルバム・タイトルを見てチェットのアルバムなのに何故Me、つまりジェリーの名前が先になっているのかと訝しんだ事もあったが、前作「Me And Jerry」の存在を知り、「ああ、そうだったのか」と妙に納得してしまった事がある。
しかし、本作で聞けるジェリーの演奏はかなり控え目だ。
大先輩にあたるチェットに敬意を表したのか、それともチェットに「あまり弾きすぎるな!」と脅されたのか定かではないが、いつもの強引さが影を潜めている。
本作には収録されていないが、「Mule Skinner Blues」という曲でチェットと共演した時のジェリーは豪快で力強いプレイを聞かせていて、チェットは完全に脇役に回っている。
チェットが客演したカタチの「Mule Skinner Blues」と本作とはコンセプトが違うのだと云ってしまえばそれまでだが、仮にもジェリーが主役であるハズの本作品とのあまりの隔たりに少々戸惑ったりしてしまうのである。
1曲目の「ジェリーズ・ブレイクダウン」はジェリーの目まぐるしいまでのギターが聞ける軽快なナンバー。
元々はバンジョー用に作曲されたのではないかと思わせてしまうあたりは、バンジョーの奏法からヒントを得たと云われるジェリーのギター・スタイルからしても面目躍如といったところだろう。
ただひとつ残念なのはジェリーがエレガットを使っている事だ。
これは個人的な好みだと思うが、私はどうもエレガットの音が嫌いなのである。
せっかく美しいガット・ギターの弦の響きをこの時代の未完成なピックアップは台無しにしてしまう。
ジェリー・リードがオベイションのカントリー・アーティスト・モデルの開発に関わっていたという事を考えれば仕方がないのだが、演奏が良いだけにこの曲はホント?のガットギターを使ってマイクで音を拾って欲しかったと思う。
2の「ライムハウス・ブルース」はジャズ・ギタリストが好んで取り上げるギター演奏の定番曲であり、チェットにも大きな影響を与えたジャンゴ・ラインハルトなどもやっている古い曲。
3の「愛の夢」はチェットのギャロッピング・ギターが聞けるメロディの美しい曲。
4曲目の「夏のセレナーデ」ではチェットがリゾネーター・ギターを弾いている。
チェットはしばしばこのギターを使うが、特にメロディが美しいテンポの緩い曲では好んでこのギターを使っているようだ。
このアルバムには収録されていないが、ジャンゴ・ラインハルト作品の「雲」や、ドク・ワトソンと共演したアルバム、「リフレクションズ」に収められた「グッドナイト・ワルツ」などで美しい音色を聞く事ができる。
他にもジェリーのギターが楽しめる「マッド・ロシアン」や南部っぽい雰囲気を漂わせた「グッド・スタッフ」など多彩な曲調で楽しませてくれるが、私のいちばんのお気に入りは10曲目の「恋の中の恋」だ。
この曲では、ジェリー/チェット、ジェリー/チェット、ジェリー/チェットと、それぞれ3パートずつのソロを展開しているが、こういうメロディの美しい曲でギャロッピング・スタイルのギターを駆使しつつ、メロディを崩していくチェットのやり方は正にチェットのギター・ワールドそのものであり、他者の追随を許さない最も強力な部分でもある。
特にジェリーのパーカッシブなソロを引き継いで弾かれる最終コーラスでのチェットのソロは良い。
こういうソロを聞くと私は俄に昔の少女漫画の主人公のように目に星を光らせて、「ああ、愛しのチェット様、何故あなたはこの世に生まれてきたの?」なんてワケの分からぬ事を口走りつつ、ひざまずいてしまったりするのである。

他のギタリストとの共演盤が多いチェットであるが、初めてチェットと互角に弾きあったギタリストと云われるジェリー・リードとの共演盤の中では本作がいちばん良いような気がする。
ジャケット写真でボートに乗った二人が見られるが、このジャケット写真の撮影時に二人のうちどちらがギター持つかで揉めたなどというエピソードも、二人の“ギター馬鹿”ぶりが伝わってきてとても微笑ましく感じられてしまうのである。
尚、本作品は国内盤でもCD化されているが、1998年に発売された輸入盤で「Me And Jerry」と本作品の2作品が2in1パックされたものがお買い得だ。