リンダ・ロンシュタット
哀しみのプリズナー
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Side-A 1.Love is a Rose 2.Hey Mister, That's Me Up On The Jukebox 3.Roll Um Easy 4.Tracks Of My Tears 5.Prisoner In Disguise Side-B 1.Heat Wave 2.Many Rivers To Cross 3.The Sweetest Gift 4.You Tell Me That I'm Falling Down 5.I Will Always Love You 6.Silver Blue |
1975年作品 |
1975年、リンダ充実期の1枚。
個人的には1973年の「Don't Cry Now」あたりから1982年の「Get Closer」あたりまでが一番好きだけど、それはリンダの実力はもちろん、時代が追い風であったという事も大きいと思う。
個人的な思い入れがそう感じさせるのかもしれないが、この時代のリンダの作品は充実したものが多く、ハズレは少ない。
当然この作品とて悪かろう筈がない。
全11曲の収録数だが、それらの楽曲の作者が凄い顔ぶれだ。
ジェームス・テイラー、J.D.サウザー、ローウェル・ジョージ、ジミー・クリフ、スモーキー・ロビンソン、H-D-H、ドリー・パートン、ニール・ヤングなど実に多彩だ。
そして共演ミュージシャンの豪華な事。
アンドリュー・ゴールド、ダニー・クーチマー、デヴィド・リンドレイ、J.D.サウザー、ローウェル・ジョージ、グレン
D・ハーディン、エミールー・ハリス、マリア・マルダーなど、本当に豪華なラインナップだ。
そしてプロデュースはピーター・アッシャー。これで悪い作品になる筈もない。
昔のようなカントリー・フレイバーは影が薄くなったが、ポップで押しまくるリンダに思わず頬が緩む。
前にも言ったようにこの頃のリンダの作品は五つ星が多いが、それはもちろん選曲眼の良さも含んだ楽曲の良さと一体になっての事だ。
曲の並べ方も憎い。
1曲目、大ヒットを記録したニール・ヤング作品の「Love is a Rose」で掴みは充分、次にジェームス・テイラーの邦題「ジューク・ボックスの歌」でリンダに絡め取られる。
緩急自在という言葉があるが、リンダは静と動、そして強と弱を極めて巧みに自身の歌に転化する天才だ。
このアルバムを初めて聞いた時に最も感動したのがB-1、マーサとヴァンデラスの大ヒット「ヒート・ウェイブ」だった。
ポップな躍動感に“はつらつリンダ”の歌声に参ってしまった。
シュープリームスでなくヴァンデラスを選んだ所がサスガだ。
リンダにはダイアナ・ロスよりもマーサ・リーブスの方がピッタリはまる。
間奏で聞けるアンドリュー・ゴールドの簡潔にしてこの曲にピッタリのギター・ソロも大変に好ましい。
この曲にこれ以上のギター・ソロは無いだろうと思われる秀逸なソロだ。
そして続くジミー・クリフ作品の「メニー・リヴァース・トゥ・クロス」。
前曲の興奮を静めるかのようにシットリと歌われるが、楽曲もしみじみと良い。
忘れがちだけどこのアルバムにはもう1曲モータウン作品がある。
A-4「Tracks of My Tears」だ。
これも出来は良く、こうなるともっとたくさんリンダが歌うモータウン作品を聞いてみたかった。
私的な趣味で云うと“マーサとヴァンデラス”の作品「ダンシング・インザ・ストリート」のリンダ・ヴァージョンなんていうのも聞いてみたかった気がする。
国内盤のこのLPの解説に「Tracks of My Tears」の発表年が1975年とされているが、これは1965年の間違いだ。
もう1曲、B-5「アイム・フォーリング・ダウン」も大好きな1曲。
アンドリュー・ゴールドとジェームス・テイラーのアコースティック・ギターが美しく、ハーモニーをとるマリア・マルダーの存在感もなかなかのものだ。
ずっと傍らに置いておきたい1曲だ。
このアルバムの翌年にも傑作といえる「Hasten Down The Wind」を発表している充実期のリンダの本作品、聞いて損はない。