Lord Sutch
Hands of Jack The Ripper

(Ritchie Blackmore)

01 Gotta Keep A-Rocking
02 Roll Over Beethoven
03 Country Club
04 Hands of Jack The Ripper
05 Good Golly Miss Molly
06 Great Balls of Fire
07 Bye Bye Johnny / Johnny B.Goode
08 Tutti Frutti Medley
  a: Long Tall Sally
  b: Jenny Jenny
  c: Keep A-knockin'
  d: Jenny Jenny
  e: Tutti Frutti
MUSICIAN
Keith Moon
Ritchie Blackmore
Noel Redding
Matthew Fisher
Victor Brox
Brian Keith
Annette Brox


ロード・サッチはさして歌が上手いワケでもないが、派手なパフォーマンスで英国内では人気があったようだ。
というのもこの人に関しては日本での知名度を上げるようなヒット曲があったワケではないし、細かい情報については本作のようなアルバムを通じて知り得たというのが、少なくても私にとってのロード・サッチであった。
このアルバムを聞いてみてもギミックが多いステージ・パフォーマンスと連発される「オーイエ!」の甲高い叫び声が妙に印象に残って、別のアルバムで改めてもっとロード・サッチを聞いてみたいという気分にはなれない。
私の独断と偏見かもしれないが、多くの人達、とりわけリッチー・ブラックモアのファンにとっては彼のギターを聞くためだけに存在しているようなアルバムだ。
若い頃から天才ギタリストとして名を馳せていたリッチーは数々のセッションに参加しているが、彼の異端ぶり、そして噂に違わぬ天才ぶりをハッキリと確認するのには本作が最高の素材になってくれる。
このアルバムは1971年4月にロンドン・カントリークラブという所でライブ・レコーディングされたという事になっており、ディープ・パープルの時とは違うスタイルのリッチーのギターが大いに楽しめる。
録音データについては、古い資料と新しいものとでは違う記述になっていて、古い資料によると本作の録音はリッチーがロード・サッチのバック・バンドに参加していた時代のものだという事でだいたい一致していた。
つまりパープル参加以前の録音という事だったのだが、今では前記のように1971年の録音であるという事が定説になっているようだ。
私が持っているアナログ盤には1972年のリリースであるという事以外、録音データの詳細は記載されていないので良く分からないのだが、私自身は本作が1971年の録音であるという説には今でも懐疑的な気持ちを持っている。
実は私はリッチーが大好きで、かなり長い間リッチーを聞き続けてきた。
「だからどうした」と言わないで欲しいのだが、ここで聞けるリッチーの音はいかにも若いのだ。
1971年といえばディープ・パープルは「ファイアボール」をリリースした年であり、人気がどんどん高まってきて飛ぶ鳥を落とす勢いだった時期の筈で、この年はかなり忙しい年だったという記述がある。
そんな忙しい最中にロード・サッチのセッションに参加する時間があったのかという素朴な疑問もある。
さらに感じる事は、ここで聞けるリッチーのギターの音、そして手クセなどの意識的に変える事が難しい部分の違いだ。
このアルバムではギブソンのES-335を使っていると思われるが、かつてリッチー自身が語っていた「イン・ロックの頃まで335を使っていた」という発言と矛盾するところでもある。
それに本作で聞ける音は「ファイアボール」などと比較すると、「ロイヤル・フィル」のライブや映像でお馴染みの「Doing Their Thing」などでのプレイに極めて近く、1971年頃のディープ・パープルで出していた音と明らかに違うと思うのだ。
そんなところから私は本作の録音が1970年以前なのではないかと疑いを抱いているのだが、オフィシャルにリリースされた別のCDに本作が1971年4月の録音だと明記されているので、おそらくそれが間違いのないデータなのだろう。
事の真偽は良く分からないままだが、いずれにしても本作では評判通りの凄いギターが聞けるのは間違いがない。
演奏されている曲に関してはリストの通りだが、概ねアメリカンなロックン・ロールを演奏している。
ディープ・パープルが演奏するロックン・ロールといえばアンコール用の「ルシール」だけだったから、ここで聞けるリッチーのロックン・ロールは珍しいものだといえるだろう。
それにしてもリッチーのプレイは白熱していて凄まじい勢いだ。
1曲目のイントロからリッチーらしいプレイが炸裂しているし、ちゃんとバッキングのプレイもこなしている。
ほぼ全編でリッチーのソロを聞く事が出来るが、ハイライトはB-1の「Good Golly Miss Molly」だろう。
この曲での火の出るようなスピード感に満ちたプレイは他ではなかなか聞けないもので、私にとってのリッチー・ベストプレイの中の1曲である。
個人的にはこういうロックン・ロールはアメリカのミュージシャンによる演奏の方が好きなのだが、この曲でのリッチーのプレイはおそらくアメリカのミュージシャンには発想出来なかったものだと思うのだ。
他の曲でもストラトを使っている時のような派手なアーミングによるギミックが少ないし、今と違って真面目にギターを弾いているので、この作品を未だ聞いた事がないリッチー・ファンには歓待をもって受け入れられるアルバムだろう。
それにES-335を使ってのプレイが満喫出来るこの作品は、同じく335でのプレイが聞ける「イン・ロック」や「イン・コンサート」の1970年録音盤と並んでリッチー・ファンには貴重なものになるだろう。