Jimi Hendrix
Live At WOODSTOCK

Disc-1
1.Introduction
2.Message To Love
3.Hear My Train A Comin'
4.Spanish Castle Magic
5.Red House
6.Lover Man
7.Foxy Lady
8.Jam Back At The House
Disc-2
1.Izabella
2.Fire
3.Voodoo Chile(Slight Return)
4.Star Spangled Banner
5.Purple Haze
6.Woodstock Improvisation
7.Villannova Junction
8.Hey Joe



この不世出の大ギタリストが亡くなって早30年の歳月が過ぎ去ってしまったが、今になってもいろいろとCDがリリースされているというのは驚きの一語である。
記憶に新しいだけでも「BBCライブ」「フィルモア・ライブ」そしてこの「ウッドストック・ライブ」があり、決して未発掘の音源ばかりではないが、デジタル・リマスターなどの処理を施されてファンの購買欲をそそっている。
確かにこの「ウッドストック・ライブ」をアナログ録音のものと聞き比べると、音圧などがかなりアップしており、ジミの圧倒的なパワーのギターを聞くには適した処理なのかも知れない。
昨年(1999年)はウッドストック30周年の記念すべき年であり、多くのイベントが開催されたりしていたが、一連のCDやDVDの発売もその一環なのだろう。
この音源に関しては過去に「ウッドストック」とタイトルされてリリースされていたので、決して目新しいものではないのだが、今回はオリジナル・マスターを使用してデジタル・リマスターを施されるという新装開店的CDなのだ。
おまけに「ヘイ・ジョー」や「フォクシー・レディ」といった未発表音源が追加された2枚組であり、更にオリジナルの演奏曲順再現というのだからファンにとっては嬉しい内容だ。
このCDの発売に合わせてDVDも発売されたのだが、何故かDVDにはCDに収録された未発表音源が収録されていないという不完全版で、大いに期待を裏切られてしまった。
ウッドストックものに関しては先に発売されていたCD、LDがあり、さらに今回のCDとDVDの発売である。そして肝心なDVDがCDとは違う内容で、不完全ときているのだからタチが悪い。完全版をいずれ別のカタチ、例えばドルデジ版とかdts版なんていうもので出す魂胆なのだろうか。どうもその為の不完全版先行発売という気がしないでもない。

さてこのCDであるが、かなり良い。
それぞれの曲に関して今さら説明を加えるなんて事は意味がないので、全体の雰囲気だけお伝えする。
今まで私にとってのジミのベスト・ライブは「IN THE WEST」であった。
その気持ちは今でも変わらないが、何故かあのアルバムにはジミの代表的なヒット曲というのが収録されていない。
「IN THE WEST」のアルバムでトップを飾っている「Jhonny Be Good」は、バークレーでのライブだが、映像で出ている同ライブには「パープル・ヘイズ」なども収録されていて、演奏の状態も悪くはないので、決して音源がなかったというワケではないのだ。
なぜ「IN THE WEST」でそういった人気曲が外されてしまったのか分からないが、このアルバムに収められているそれぞれのテイクはかなり程度が良いと思う。
演奏が良いばかりではなくて、ギターの音も抜群に良く録れていると思うのだ。
どこか他の所でも述べた気がするが、私はギターの素の音を損なってしまうような深いエフェクターのかけ方はあまり好きではない。ジミの音はかなりエフェクト処理されてはいるのだが、良く聞いていると所々にストラトの素の音が聞けるのだ。
このアルバムでも「Little Wing」「Red House」「Voodoo Chile」などでストラトのストレートな音が聞け、その音は身震いするほど良い音なのだ。
こういう厚化粧していない音では、そのギターの素性というかチューニングまで聞き取れて嬉しい。ここでいうチューニングとは、いわゆる弦のチューニングの事ではなくて、一言で云ってしまえば調整の事である。
弦高とか弦のゲージとかの事だ。
かつてマイク・ブルームフィールドがバディ・マイルスが所有していたという、ジミのギターを弾いた時の事を述懐している記事を読んだ事があるが、「弦はヘヴィーだったし、アクションもヘヴィーでとても弾きづらかった。そんなギターをジミがいとも簡単に弾いていたのがスゴイ」と語っている。
まあこの記事を読むまでもなく、あのクリアーな音を聞けば、マイクが述懐した事は大いに頷ける話であり、細いゲージの弦や低い弦高の、ネックを握っただけで音が出てしまうような調整では決してあのような音は出ないと思う。
かなり回り道をしてしまったが、このように「IN THE WEST」は私にとって大好きなアルバムの1枚なのだが、最近相次いでリリースされたデジタル・リマスター処理をされたものと比べてしまうと迫力が全然違い、一度その音に接してしまうとアナログの「IN THE WEST」の音は淋しい。
誤解を招くといけないので敢えて云っておくが、私は基本的にはアナログの音の方が好きで、ゆっくり音楽を聴きたい時などはどうしてもLPレコードに針を落としてしまうタイプの人間である。だから決して何が何でもデジタルが良いと云っているワケではないのだが、前にも述べたようにジミの圧倒的なパワーのギターを満喫するには最新の処理を施されたものの方が良いようだ、というのは最近のジミのCD等を買って思った正直な感想だ。
そんなワケで今紹介しようとしている「ウッドストック」も最近は好きなアルバムで聞く事が多い。
ヘッドフォンを使って聞いてみるとまるでステージの目の前で聞いているような感じであり、豊かな音場と音圧に圧倒される。
先にも述べた通りかなりエフェクトされた音ではあるが、ストラトの音はちゃんと生きていて60年代後期仕様のストラトの音が満喫できる。
このステージで使われたストラトはオリンピック・ホワイトのペイントが施された1968年製の貼りメイプルのモデルで、シリアル・ナンバーは240981である。
ウッドストックの映像を見る限りこの時のストラトはかなり白っぽく映っていたが、ごく最近になってこのギターの写真を見たら、白というよりも黄色に近いクリーム色であった。
長い年月を経る間に焼けてしまったのかもしれない。
ジミはいろいろなストラトを使っていたが、この日使ったギターは1968年10月頃から使い始め、亡くなる直前の1970年9月まで使われたという。
ジミというとどうしても白のストラトを連想してしまう私にとって、このギターはまさしくジミの象徴であった。
個人的な好みではあるが数多く残されたジミの録音の中でも、「Star Spangled Banner」から「Purple Haze」にかけての流れはこの演奏がベストの出来であると思っている。
ギターの歪みやよく効いているサスティンの感じ、そして包み込まれるような臨場感、このテイク以上に良いのを私は聞いた事がない。
ちょっと話が逸れるが、ここで演奏されている「Star Spangled Banner」に関しては色々な意見があった。
その多くはジミがこの演奏に込めたのは、ベトナム戦争中であるアメリカ国家への痛烈な批判と捉えたものだった。
ウッドストックが開催された1969年といえばアメリカはベトナム戦争の真っ最中であり、アメリカ国内はもとより世界各国で反戦運動が盛んに行われていた時期だ。
そんな風潮の中でこのアメリカ国歌であるから物議を醸して当然だ。
しかし、ジミがこの演奏に対してどの程度思想的思い入れを込めていたのかは甚だ疑問だ。
アメリカ国歌に戦闘機の墜落擬音や爆発音を挿入したタイムリーな発想は、思想的というよりもむしろ単なるエンターテイメントだったのではないだろうか。
今にして思えば特別深い思い入れがあったとは思えない。
エレキギターを弾く人なら分かると思うが、機材が許すならああいう音の遊びを一度はやってみたいものだ。それが運良く時代の要求に合っただけなのではないかと、最近になって強く思うようになった。

話を元へ戻そう。
「Star Spangled Banner」から「Purple Haze」へ移るところでのフィード・バックのカッコ良さ、その後のインプロビゼイション(この部分は映像で見るとジミの手の大きさが良く分かる)、そしてオクターブが美しい「Villannova Junction」など、今聞いても決して時代を感じさせるような色褪せた演奏ではない。
やはりこの辺の流れがウッドストックでのジミのハイライトといえるものだろう。
このロックの歴史に残る名演奏が繰り広げられた1969年8月18日の朝、たぶん出番が相当に押して待たされたであろうジミが、どういう精神状態でステージに上がったのか知る由もないが、ここで演奏されている数々の曲はジミのベスト・プレイに数えてもいい出来だと思う。
集まった人の数が45万とも50万ともいわれたこのイベントの大トリをつとめたジミがステージに上がった時には、多くの客は疲れ果てて家路についており、この日の朝残っていた観客は25000人程度だという。
映像で見るこの朝の光景は25000人の観客が残っていたとはいえ、会場の広さに比べたらそれははるかに少なく感じる人数であった。
映像を見ただけでも祭りの後のような寂しさを感じるのに、映画ではこの映像のバックに哀愁の漂う「Villannova Junction」を流していたものだから一層の寂しさを感じたものだ。
このイベントの出演者中最高の18000ドルのギャラを得ていたジミの最高のパフォーマンスを見ずして帰った客は不幸という他ない。
因みに18000ドルのギャラというのは当時のレートを1ドル=360円としたら648万円になる。
そして更に映像使用権として12000ドルを別途支払ったというから、ジミ側がこのイベントで得た報酬は3万ドル=1080万円という事になる。
私事になるが、この当時学生であった私がスーパーの鮮魚部で1週間バイトをして得た金額は8000円程度だったと記憶している。
それを考えるとジミが既にスーパー・スターであったとはいえ、ずいぶん破格のギャラだった事が分かる。

ジミのステージでは定番になっていた「Voodoo Chile」も、この時の演奏がわりに好きだ。
演奏時間が長くてやや冗漫であるという事実はあるが、ソロ中盤でのアームの使い方などアグレッシブで感動ものだ。
繰り返しになるが「Purple Haze」も私としてはこの日の演奏が好きなのだが、全体を通して感じるのはやはりバンドとしてのまとまりの無さであろう。
セカンド・ギタリストの冴えない演奏にも興を削がれる。
これを聞いただけでこのユニットの成否が分かろうというものだ。
今回新たに収録された「Foxy Lady」もイイ。
演奏もイイのだがギターの音がすこぶる良いのだ。先に述べたストラトの音が心地よく耳に突き刺さってくる。ジミの「これでもか!」と云わんばかりのパワーから引き出されるシリアル・ナンバー240981のストラトは、歪んだ音の中にも60年代後期仕様の素性を垣間見せてゾクゾクさせる。
最近のギタリストはどんなに良いギターを使っても、そのギターの素性を感じさせるような音は出してくれないが、ジミのこういう音の出し方は私のような年代の人間にはやはり嬉しい。
もしジミが今も生きていたら一体どんな音を出していたのだろうか。
この日のラストナンバーになった「Hey Joe」も同様にイイ。
この曲は今回のCDに新たに収録された曲であり、オフィシャル盤としては初のCD化という新鮮さもあって、目下の所このアルバムの中で一番好きなナンバーになっている。
最初の方でジミは大きなミスをしでかしているが、歌のバックで聞ける様々手練れは他のアルバムで聞けるものよりカッコイイし、それに何といってもここでもギターの音が良いのだ。
図太い金属的な響きや、和音の時の音の厚みなど、50年代ストラトよりも60年代後期型を好む私にはたまらない音なのだ。
ただ良く聞いてみるとこの曲だけギターの音が違うような感じがするのは単なる気のせいだろうか。前曲が終わってから、やや間があって「Jimi Hendrix With Experience」のコールと共に始められたこの曲はもしかしたらアンコールだったのだろうか。そうだとしたらハデなアーミングでチューニングが狂ってしまったギターを交換したという事は充分に考えられる。
CDに併せて映像の完全版が出ればその辺りの事も確認できると思っていたのだが、冒頭で述べたように、DVDは不完全版でその確認は出来なかった。
しかし、Goodbye Everybody というジミの歌声で幕を閉じた歴史的なステージの全貌を、最新技術によりクリアでパワフルに蘇らせた本作は聞くに充分な内容を持っている。


本文とはまったく関係がないが、左の写真は1970年に公開された映画「ウッドストック」の試写会でもらったパンフだ。
試写会は雑誌・音楽専科の懸賞に当たったもので、東京・イイノホールで開催された。試写会に遅れること約1ヶ月でロードショーが始まったワケだが、私はスクリーンが大きかった今は無き東京有楽町の丸の内ピカデリーでこの映画を見た。
そしてガッカリした。
何故かというと音量が小さかったのだ。こういう映画は音が命だと思うが、1ヶ月前に見た試写会の時よりもはるかに小さな音でコソコソと上映しているような感じで、ガッカリして家路についたのを今でもはっきりと覚えている。この頃の映画は今のように音が良いワケではなくて、きっと35mm/光学録音・ステレオという程度だったと思う。サラウンドなんてあったのかなあ・・・