Hank Marvin
Hank Plays LIVE(POLYGRAMTV 537 428-2 輸入)

1. Live & Let Die
2. Devil Woman
3. Summer Holiday
4. Foot Tapper
5. Living Doll
6. Pipeline
7. Lucile〜Rip It Up〜Blue Suede Shoes
8. Sleepwalk
9. Atlantis
10. The Savage
11. The Young One
12. Travellin' Light
13. Eleanor Rigby
14. Guitar Tango
15. Hound Dog
16. Mystery Train
17. Wonderful Land
18. The Theme From Deer Hunter
19. The Rise & Fall Of Flingel Bunt
20. Apache
21. Move It


今、プロ・アマを問わず世界中のギタリスト達に最も多く使われているエレキ・ギターはストラト・タイプのギターだと思う。
ストラト・タイプと書いたのは、最近はフェンダーのオリジナル・ストラトよりも様々なメーカーやショップによる、カスタム・メイドのストラトのボディ・シェイプを持ったギターが多いからである。
私はギターの外観を著しく損なうような改造はあまり好まないので、「これがストラトか?」と云いたくなるなるような改造が施されたギターも多いが、それも時代の流れだから仕方がない。
特に最近はピック・アップを交換する人が多く、中でもレース・センサーを搭載する人が多いようだ。しかし、これは私のビジュアル的好みからすると、ストラトの白いピック・ガードに白のノッペラボウみたいなレース・センサーのピック・アップは今ひとつしっくりこないものがある。
数年前に来日したストラト使いのリッチー・ブラックモアも同じように感じたみたいで、何とピック・アップを黒のマジックで塗ってしまうという暴挙に及んだが、これなどは心情的には大いに理解できる話である。
前置きが長くなってしまったが、今、世界中のストラト使いの人達の中で、最も美しい音を出すという点で頂点に立っているのが、今回紹介するハンク・マーヴィンだ。
ハンク・マーヴィンといえば、前出のリッチー・ブラックモアをはじめイギリスの多くのミュージシャンに多大の影響を与えたギタリストだ。
シャドウズを率いてクリフ・リチャードのバックを務めたり、またシャドウズ自体もひとつのグループとして多くのヒット曲を出して人気を獲得しており、エレキ・インスト・バンドとしてベンチャーズと人気を二分した。
イギリスの多くのギタリストに影響を与えた事は既に書いたが、1996年に何故かアメリカで出された「TWANG」というトリビュート・アルバムに参加したミュージシャンの名前を見ればその事はすぐに理解が出来るだろう。
因みにそのアルバムで参加しているミュージシャンは、リッチー・ブラックモアをはじめ、ブライアン・メイ、ピーター・グリーン、マーク・ノップラー、ピーター・フランプトン等、蒼々たるメンバーが顔を揃えており、この顔ぶれを見ただけでもハンク・マーヴィン&シャドウズがイギリス・ミュージック・シーンに与えた影響の大きさが分かろうというものだ。
さて、今回紹介するのは1995年のハンクのソロ・プロジェクトの模様をイギリス・バーミンガムのシンフォニー・ホールで収録したライブで1997年にリリースされている。
1995年のハンクのソロ・プロジェクトというのは、同年にリリースされたクリフ・リチャードの曲をカバーした「Hank Plays Cliff」のプロモーション・ツアーであり、本アルバムもその時のUKツアーから収録したものである。
アルバムは映画「007 死ぬのは奴らだ」の主題歌である「Live&Let Die」で幕を開ける。
最初からハンク・マーヴィン独特の深さを湛えたストラト・トーンが全開だ。
過去に数多く出されているシャドウズのレコードに記録されているどの音よりも、私はこのライブで聞ける音が好きだ。
その辺の所はベンチャーズと好対照を成していると思う。
これはあくまでも私の超個人的意見だが、ベンチャーズで音が良いのは初期ドルトンやリバティのフェンダー使用時代、そして全盛期のモズライト使用時代で、その後はギターの音も、そして演奏にもさして聞くべきところがないと思っている。
そしてもっと云うならモズライト時代の録音でも1965年リリースの「Nock Me Out」までという限定付きなのが私のベンチャーズ感なのだ。
ところがハンク・マーヴィンに関しては、今がいちばん良いというのが私の率直な感想だ。
そもそも再生ハンク?との出会いは友人宅で見せられた1984年のクリフ・リチャード&シャドウズのライブLDであった。その中に収められていた「ディアハンターのテーマ」の音の美しさには心底感動させられた。
その映像ではほとんどクリフのバックに徹していて、シャドウズとしての演奏は3曲しかなかったので、ハンクのギターを満喫するという訳にはいかず、いささか消化不良気味であった。
しかし、今紹介を進めている本アルバムでは充分にハンクのギターを聞くことができて、やっと消化不良も治った。
このアルバムで聞ける曲に関しては古くからのシャドウズ・ファンには馴染みの深い曲ばかりであり、嬉しい事にアレンジを変にいじっていないので違和感なく楽しめる。
前出の「Hank Plays Cliff」からは2、3、5、11、12、21の6曲が演奏されている。
しかし、何れの曲も本アルバムで聴けるライブの方が良い。
特に3の「Summer Holiday」はアレンジも演奏も絶品であり、やたら早弾きがもてはやされる今日の状況の中で、一音一音歌わせる事の大切さや難しさを教えてくれる。
オリジナルと比べるとだいぶゆったりしたテンポに変わっているが、決してオリジナルの雰囲気を壊すという事はなく、ギターの演奏用インストとしてはこのアレンジの方がいいと思う。
この曲で聞ける間奏の美しさは特筆モノであり、近年のあらゆるエレキ・ギター演奏の頂点に立つ名演奏といっても過言ではない出来だ。
他には「Pipeline」、「Apache」などベンチャーズと競作になったものも収録されているが、これらの曲に関してはベンチャーズの方が良いというのが私の感想だ。
この2曲に関しては「コール・アンド・レスポンス」スタイルの演奏が耳に馴染んでおり、レスポンス部がない演奏は私にとってはどうしても形勢不利だ。
話は横道に逸れるが、ベンチャーズというのは演奏力はもちろんの事、そのアレンジ能力にも突出したものがあり、そういう意味ではあの真のギターの神様といえるチェット・アトキンスでさえ敵わない曲があるほどなのだ。その代表的な曲が「キャラバン」であり、これに関してはオリジナルを越えたといっても過言ではない位だし、現に私はベンチャーズの演奏を越えた「キャラバン」を聞いた事がない。ジャズの曲をああいう風にアレンジし、一級のギター・インストに仕上げてしまう手腕は並のものではないし、あらゆるテクニックを盛り込みながら聞かせるインストを作った最大の功労者でもある。
あの時代、キャラバンをはじめとする難曲に挑んで涙を飲んだアマチュアは多いはずだ。
とは云うものの、私はシャドウズもベンチャーズも同じように好きであり、どちらがより優れているかなどというバカげた事を語るつもりはまったくない。両者は共に偉大で共に素晴らしいのである。
このアルバムに収められたその他の曲は、シャドウズ時代からファンの耳に馴染んでいる曲ばかりだ。Bruce Welchのサイド・ギターが聞けないのが唯一残念な事ではあるが、どの曲も手慣れていて(当たり前だが)演奏のレベルはかなり高く、録音も良い。
過去に残されたシャドウズのライブ録音が今ひとつというグレードであった事を考えると、録音が良いという事実はファンにとっての喜びは大きいし、最新録音で聞くハンクのストラトの音は極上品だ。12曲目の「Travellin' Light」でキーボードがソロを弾いている間に、ハンクはギターをアコースティックに持ち替える。昨今のアーティストのライブではコンサートの一部をアコースティック・コーナーにして、文字通りアコースティック・ギターを聞かせるケースが多いが、その度に私は閉口する。
そもそもエレキ・ギターとアコースティック・ギターの両方に卓越しているプレイヤーというのを私はあまり知らないし、敢えて極端な事を云えば、エレキ・ギターとアコースティック・ギターは、似ていながらまったく違う世界の楽器だといっても過言ではないくらいだ。
私のフェイバリット・ギタリストであるチェット・アトキンスはその両方に卓越したプレイヤーであり、その他にも何人かのプレイヤーがいるが、その数は極めて少ないというのが実状だと思う。特にロックの分野には少ないように思う。
しかし、ハンクに関して云えば、かなり巧い方だと思っている。
私の友人に云わせれば「エレキとアコギを同じように弾いて巧い」というのだが、それはある意味で言い得ているのではないかと思う。ここで聞けるアコースティック・ギターの腕前が抜きん出ているとは決して思わないが、無理のない安心して聞けるプレイである事は確かだ。
13の「Elenour Rigby」では息子のベン・マーヴィンと2人でギター・デュオを聞かせ、14では古くからのレパートリーである「Guitar Tango」を熱く聞かせる。
ギター・タンゴは元々アコースティック・ギターで録音され、シャドウズのパリのオランピア・ライブではエレキ・ギターで演奏されているが、やはりアコースティック・ギターの方がこの曲には合っているようだ。エレキ・ギターの名手ハンクといえども、何がなんでもエレキ・ギターを弾いていれば良いというものでもないようだ。
ハンクはもちろんロックン・ロールを弾いても上手い人で、16の「Mistery Train」などで聞かれるグルーブ感は、最近の若いプレイヤーにはなかなか備わっていないものだ。
しかし、このテの曲はやはりアメリカのミュージシャンの方が1枚上手だ。
ジェームス・バートンのソロ・アルバムである「The Guitar Sounds of James Burton」や、やはりギターはジェームス・バートンであるが、エルヴィス・プレスリーのラスベガスのライブで「タイガー・マン」とメドレーで演奏されている「Mistery Train」のドライブ感はアメリカのミュージシャンでなくては醸し出せないものだ。もっともこの辺の事に関して云えば、ジェームス・バートンのチカラばかりではなくて、脇を固めるミュージシャン、例えばドラムのロン・タットなどの力添えも大きいとは思うが・・・・・・。
何といってもハンクの真骨頂が発揮されるのは「アトランティス」、「ワンダフル・ランド」、「ディア・ハンターのテーマ」などのメロディアスな曲であろう。
先に例を挙げたロックン・ロール、あるいはロックン・ロールっぽいスタイルのギターを弾ける人はたくさんいるが、ハンクのようなスタイルのプレイヤーは他に聞いたことがない。
このアルバムの中で聞けるそれぞれの曲は、ある程度のギターを弾ける人だったら音を拾うのにそれほど苦労しないで済むと思う。
早弾きはほとんどないし、聞き分けるのに苦労するような和音の使い方もあまりない。
しかし、音を拾ってメロディを弾く事と、ハンクのように弾きこなす事とはまったく違う。
もしもバンドを作って「アトランティス」や「サマー・ホリデイ」、「ディア・ハンターのテーマ」などの曲を満員の聴衆を前にしてステージで演奏する事があるとしたら、ギタリストは相当な緊張を強いられるに違いない。
何しろ一音のミス・ピッキングもミス・タッチも許されないワケで、ハード・ロックの早弾きで一音ミスするのとは大きく違うのだ。
満員の聴衆の目と耳がギタリスト一人に注がれる中で、ごまかしが利かないという緊張は針のムシロだと思う。

今までずっと「Hank Plays LIVE」のCDについて述べてきたワケだが、実はこのライブには映像もあって、ソフトとして販売されているのだ。私もこのビデオを求めて随分歩き回ったのだが、結局扱っている店はなくて日本では入手できなかった。
最終的には救いの神が現れて、タイミング良くちょうどこのビデオをイギリスから取り寄せようとしていた知人に便乗して、すべてお世話になった末にやっと手に入れる事が出来たのだ。ご存知の方も多いと思うが、イギリスはテレビ放送の方式が日本とは異なる規格のPAL方式を採用しており、日本のNTSC方式とは互換性がない。そのため、私達が手に入れる事ができるのはPAL方式からNTSC方式に変換ダビングしたもので、若干画質の劣化はあるが動くハンクを見られる喜びは大きい。
その上ビデオにはCDに収録されていない曲が収録されており、その中の1曲にシャドウズ・ファンには馴染みが深い「Shadoogie」がある。この曲は過去にリリースされている何枚かのライブ・アルバムで聞くことができるが、私の好みでいえば本ビデオに収録のテイクがいちばんカッコイイ。
お馴染みのリフやメロディの後の間奏で聞くことが出来るストラトのナチュラルなトーンは鳥肌ものだし、アレンジもとてもカッコイイ。
なんでこんなに良い演奏をCDに入れなかったのかと恨み言のひとつも云いたくなる程だ。
てだ全体的にCDとビデオでは音質がけっこう違っていて、CDの方がよりイコライジングの度合いが強いようで、ビデオの方は若干音が痩せているものの、音としてはこちらの方がリアルなのではないかという気がしている。
だが残念な事に本作はCDもビデオも日本発売はされていなくて、欲しければ輸入盤を手に入れるしかないのだ。CDは少なくても私は日本(都内)で手に入れたから、熱心に探せば入手可能かもしれないし、輸入盤を扱っている店なら取り寄せてもらえるだろう。
何れにしてもこのアルバム全体を通していえる事は、非常に良質なギター・アルバムであるという事だろう。
歪んだ音の使用は非常に少なく、耳触りの良い音が全体を覆っているので、シャドウズ・ファン、ギター・ファンのみならず、あらゆる音楽ファンに楽しんでもらえるだけの要素を備えているアルバムだと思う。
現に私の知人のジャズ・ファンにこのCDを聞かせたら非常に気に入って、早速私が教えた店に出向いて手に入れてきた。
ギター・アルバムという事でいえば日本とは密接な関係にあり、毎年のように来日しているベンチャーズも現在は良質なギター・アルバムを出しているとは云えないし、他のジャンルを見回してみても状況はあまり変わらない。
そんな中で本作は久しぶりに登場した間違いのない良質なギター・アルバムである。
もしもまだハンク・マーヴィンを聞いたことがない人がいたら、是非聞いてみて欲しい。
ギターのテクニックで早く弾くというのは重要なテクニックのひとつに違いないが、一音一音歌わせるというのはもっと重要な技術だ。いくら早く弾けてもギターを歌わせられなければその表現力は半減すると思う。
そういう意味でこのアルバムで聞けるハンクのプレイは、早弾きなしでも充分にギター・ミュージックが成立する事や、ギターを歌わせる事の大切さなどを教えてくれているいい教材だ。
最後に叶わぬ夢と知りつつも、ハンクの来日公演を望むばかりである。