永遠のグループ・サウンズ
2000年7月28日
第一ホテル東京

演奏曲目リスト
1.ハロー・エブリィバディ
2.ザッツ・アウェイ
3.ブーン・ブーン
4.廃墟の鳩
5.花の首飾り
6.色つきの女でいてくれよ
7.ブルー・シャトー
8.バラの恋人
9.君に会いたい
10.好きさ好きさ好きさ
11.シーサイド・バウンド
12.あの時君は若かった
13.ビーチ・ボーイズ・メドレー
14.星の恋人たち
15.振り付けヒットパレード
16.ヤングマン
17.青空のある限り
18.愛するアニタ
19.想い出の渚
アンコール
20.ツイスト&シャウト
21.懐かしきラブソング

2000年7月28日、東京・新橋駅近くにある「第一ホテル東京」で「永遠のグループサウンズ」とタイトルされたディナー・ショーが開かれた。
今年6月にはザ・タイガースのCDボックス・セットが発売されたり、先頃亡くなられた井上大輔氏が在籍していたブルー・コメッツのCDセットなども発売されるという事で、グループサウンズを取り巻く状況が俄に賑やかになってきているが、ナマの音を聞くチャンスというのは意外に少ないものだ。
単発的に活動している人達もいるが、かつてのウェスタン・カーニバルのように色々なバンドが賑々しく出演するショーというのが見ていて面白い。
この夜のショーは加瀬邦彦とワイルドワンズを中心に、タイガースの加橋かつみ、ジャガーズの岡本信、カーナビーツのアイ高野、そしてワイルドワンズ出身の渡辺茂樹という豪華な出演陣だった。
今回私は受付カウンターの後ろの大きな看板にGSグッズをディスプレイするのをお手伝いさせていただき、リハーサルから本番まで逐一見学させていただくという幸運を得た。
かつて私はワケあって何度もリハーサルというものを見てきているが、場合によっては本番よりもリハーサルの方が面白いなんていう事もあるワケで、それは出演者が本番で演奏する以外の曲をやったり、他人の持ち歌を披露したりする事があるからだろう。
今回は加橋かつみがリハーサルの最中にスパイダースの名曲として名高い「ノー・ノー・ボーイ」のサワリをほんの一瞬だけ口ずさんでいたが、この曲が大好きな私としては是非加橋かつみのヴォーカルでフルコーラスを聞いてみたいと思った。
1回目のショーは18:20から5階にあるボール・ルーム「ラ・ローズ」という会場で行われた。
トップ・バッターは岡本信、アイ高野、そしてチャッピーこと渡辺茂樹の3人が登場してチャッピー・バンドをバックに「ハロー・エブリィバディ」、「ザッツ・アウェイ」、そしてジョン・リー・フッカーのナンバーとしてお馴染みの「ブーン・ブーン」を続けて歌った。

続いて加橋かつみが登場。代表曲ともいえる「廃墟の鳩」「花の首飾り」を歌って、岡本信、アイ高野を加えて「色つきの女でいてくれよ」を歌った。
私にとっても、そしておそらく多くのGSファンの人達にとってもこの曲は新しい曲というイメージがあると思うが、発表されてから既に15年程も経ってしまい、立派なナツメロになってしまったようだ。
誰しも同じ事を思うだろうが、やはり出来ればそれぞれのバンドの演奏でこれらの曲を聞きたい。各バンドのメンバーが集うのは今となってはなかなか難しいとは思うが、アイ高野はカーナビーツで、岡本信はジャガーズで、そして加橋かつみはタイガースで歌っているところを見たいものだ。
だがこの日バックをやっていたチャッピー・バンドはイイ音を出していた。以前タイガース・メモリアル・クラブ・バンドでチャッピーのキーボード・プレイを聞いた時に「イイ音出してるな」と感じた事があったが、今回の演奏も良くて、もっと色々な所に登場してもらいたいと思う。
よくテレビ等を見ているとGSのバックバンドの年令がすごく若い事があり、そうなると上手いとか下手とかいうレベルではなくて、歌とバックの音が溶け合わないというような事もあって、せっかくの雰囲気が壊れてしまうが、さすがチャッピー・バンドはそういう事はなかった。
8曲目に演奏された「バラの恋人」はワイルドワンズのチャッピーとしてのヒット曲であるわけだが、この日のステージではワイルドワンズと一緒ではなく、チャッピー・バンドをバックにこの曲を歌っていた。
11曲目の「シー・サイド・バウンド」で再び加橋かつみが登場。
前半部のラスト曲という事で、前半出演者全員でこの曲を歌った。ナマでこの曲を聞いたのは久しぶりの事であったが、エンディング近くのところで加橋かつみのギター・ソロを聞く事が出来たのは思わぬ収穫だった。タイガース時代から愛用しているエピフォンのカジノが乾いた音を出していて、ホント久しぶりに加橋かつみのギターを聞いたという気がする。

12曲目の「あの時君は若かった」から加瀬邦彦とワイルドワンズの登場。
ご承知のようにこの曲はザ・スパイダースのヒット曲として有名であるが、私にとってこの曲はワイルドワンズの演奏が強く印象に残っているのだ。
古い話なのだが、今から15年程前に埼玉県の浦和市で「グループサウンズ・カーニバル」というイベントが開催された事があり、私はその時スタッフとして企画段階から参加していたのだ。
その日のステージでワイルドワンズが演奏した「あの時君は若かった」のスローなアレンジがすごく気に入って、それ以来私にとってこの曲はワイルドワンズ・ヴァージョンの印象の方が強くなってしまったのだ。
スパイダースが演奏したオリジナルよりもずっとスロー・ダウンされたワイルドワンズのアレンジはこの曲の持ち味に合っていると思うのは私だけだろうか。
次に演奏された「ビーチボーイズ・メドレー」もワイルドワンズは昔からやっている18番もので、手慣れていて非常に良い出来であった。コーラスの厚みが気持ちよく会場に響きわたる。
続けてメロディの美しい「星の恋人たち」を鳥塚しげきが、手話の振りを付けながら歌い上げていく。
そしてこの夜のステージで私がいちばん感動したのが次の「振り付けヒットパレード」であった。これにはちょっと説明を要するかもしれない。
ただヒット曲を網羅しただけのメドレーなら別に珍しくもないが、「振り付けヒットパレード」は振り付けに特徴のあった曲、例えばこのメドレーに入っていたのは、キャンディーズ、ピンク・レディ、金井克子、沢田研二など多数であり、最後にモーニング娘まで入っていたのには驚かされた。
こういうプログラムは楽しい。グループサウンズのショーといえば大抵は過去のヒット曲を演奏し、他にやったとしても当時やっていたカバー曲をやる位なものと、概ね相場が決まっている。
多くのファンもそれを望んでいる筈だからそれで良いのだと思うが、もっと新しい出し物が欲しいと思うのは欲張りだろうか。
「振り付けヒットパレード」はそういうGSファンの欲求を満たしてくれると思う。
この「振り付けヒットパレード」もそうだったし、先の「ビーチボーイズ・メドレー」も同様、そして過去に何度か聞いたことがあるワイルドワンズのメドレーものは非常に良かったという印象が強い。
こうしたメドレーの選曲とアレンジの良さ、そしてポップな感覚は最近の音楽が失ってしまった、音楽の一番楽しい部分であり、それをナマで聞き、そして見る事が出来たのはファンとして嬉しい限りだ。
ただの音楽メドレーと違って相当な練習を積んだ筈であり、失礼ながら年齢的、体力的な事を考えるとかなり大変だったと思う。
更にメンバー各自はそれぞれに仕事を持っているワケで、そういうあらゆる制約の中であれだけのものを作り上げたのはさすがプロであると思う。
ナツメロ系やGS出身の人達の中には「昔の名前」だけで人前に出ている人もいて、そういうのを見る度にやるせない思いがするが、ワイルドワンズが現役であるという事を強く認識させられる「振り付けヒットパレード」であった。
このメドレーでステージ上を動き回ってかなり息切れがしていると思うが、ここで更に追い打ちをかけるように「ヤングマン」を歌う。
島英二がポンポンを客席に飛ばすというハプニングがあったが、客席も大いに盛り上がって次の懐かしのオリジナル・ヒットの演奏に突入していった。
それにしてもみんな元気である。
前曲で盛り上がったざわめきを残したままお馴染みのヒット曲、「青空のある限り」、「愛するアニタ」、「想い出の渚」を続けて演奏。
途中のお喋りで植田芳暁が「想い出の渚、一発のヒットで30年間やってきた」と謙遜していたが、ワイルドワンズには他にもヒット曲があり、良い曲が多い。
個人的な好みを云わせてもらえば「青い果実」をプログラムに加えて欲しい。

ここでギター・ファンのサイトとしてはギターの事にもちょっと触れなければならない。
この夜加瀬邦彦が使っていたのは赤いフェンダー・ジャガーと、加瀬氏のトレード・マークになってしまった12弦のヤマハ・ブルージーンズ・モデルであったが、前半のカバー曲の演奏でジャガーを使い、後半のオリジナル・ヒットの演奏でブルージーンズ・モデルを使っていた。
鳥塚しげきはアコースティック・ギターを使っていたが、昔使っていたあのストラトを弾いているところを是非見てみたい。正直に言って客席にいたら鳥塚氏のギターの音は殆ど聞き取れないのだが、右手のしなやかな動きが良い音を出している事を連想させる希有なギター弾きだ。特にあのストラトを2マイクに改造したキッカケが鳥塚氏が好きだという「生ギターを弾きっぱなしにした、ジョリーンとした音」を出したい為だった(この事はリットー・ミュージックから出ているGuitar Graphic第1号に詳しい記事がある)と知ってからますますあのストラトの音が聞きたくなったのだ。
出来る事ならマルチ・トラックのスタジオ録音からサイド・ギターの音だけピックアップして聞いみたい位である。それくらい私にとってはあの右手のしなやかな動きが気になるのである。
話をステージに戻そう。
「想い出の渚」で予定のプログラムを終えたが、盛り上がったお客さんがアンコールを連呼して出演者をステージに引き戻す。
前半出演者も含めた全員がステージに出てきて、お約束の合同演奏が始まる。
曲は「ツイスト&シャウト」で、各自のソロで大いに盛り上げたあと、いよいよエンディングだ。
ラストに用意された曲は1998年発表のワイルドワンズのアルバムから、「懐かしきラブソング」(TMCBがやっていたのと同曲)だ。メロディの美しい大変に良い曲で、アンコールというと前出の「ツイスト&シャウト」や「ジョニー・ビー・グッド」なんていう曲が定番で、ノリの良い曲で盛り上げて幕になるというのがオーソドックスであるが、「懐かしきラブソング」のように美しいメロディの曲でシットリと締めくくるのも良い演出だと思う。
以上の曲をもって1回目のプログラムはすべて終了したが、私がこの夜のライブでいちばん興味を惹かれたのは、ワイルドワンズのステージであった。
本文中でも触れたが、「振り付けヒットパレード」では多くの時間を練習に費やした事が推察される内容だったし、他の曲でもナツメロ系の歌手やグループに多く見受けられる、悪い意味での同窓会的雰囲気がなくてしっかりとしたステージを見せてくれた。
それは今も現役で活躍しているバンドならではの強みだろう。
あのGS全盛時代に雨後のタケノコのように多数出現したバンドの中で、今もまたオリジナル・メンバーで活躍しているのはワイルドワンズだけだろうし、この夏も驚くほど多くのスケジュールを消化しているようだ。
ワイルドワンズ本人たちの弁によれば、「50歳を過ぎた声で30年前の曲を聞いて下さい」との事であったが、そんな30年間の時の流れを感じさせない位にワイルドワンズの音楽は現役そのものだと断言してもいい。
私を始めグループ・サウンズを好きな人達は今でも多いと思うが、GS関連のイベントに行っても昔のヒット曲が聞けるだけであり(それはそれで良いのだが)、もうちょっと変わった趣向が欲しいと思っている人もいるのではないかという気がする。
現役で活動していないバンドにとって、ワイルドワンズのような試みするのは難しいと思うが、ひとつの方向性を提示するものとして大いに歓迎したい。
尚、このディナー・ショーのリポート、及び曲目リストは、当夜2回行われたショーの1回目のレポートである事を記しておく。