DON RICH & THE BUCKAROOS
The Don Rich Anthology
(SUNDAZED SC11091)

01.Buckaroo
02.Orange Blossom Special
03.I'm Layin' It On The Line
04.The Happy-Go-Lucky-Guitar
05.Cajun Fiddle
06.Out Of My Mind
07.Round Hole Guitar
08.Tumwater Breakdown
09.Chicken Pickin'
10.Love's Gonna Come A Knockin'
11.Buckersfield Breakdown
12.I'll Be Swingin' Too
13.Sad Is The Lonely
14.Pretty Girl
15.Chaparral
16.I'm Coming Back Home To Stay
17.Spanish Moonlight
18.Saturday Night
19.I'm Goin' Back Home Where I Belong
20.Aw Heck
21.Georgia Peach
22.Tim-Buck-Too
23.Pickin-Nickin'
24.Country Pickin'


ドン・リッチは1960年代にアメリカのカントリー・ミュージック・シーンを席巻したシンガー、バック・オウエンスのバンド「バッカルーズ」のリーダーだったギタリストであり、フィドラーでもあった人だ。
バック・オウエンスは1957年から1975年までのキャピトル時代に50曲以上ものヒット曲を放ったヒット・メーカーであり、後に西海岸を中心に多く誕生したカントリー・ロックのミュージシャン達に多大の影響を与えた人なのだ。
またベンチャーズのギタリスト、ノーキー・エドワーズがかつて在籍していたバンドとしてもエレキ・ファンの間では知られた人である。
もともとギタリストとしても実績のあったバック・オウエンスとドン・リッチの“二人テレキャスター”によるサウンドは、ストレートでポップでそして何よりも底抜けに明るいのが特徴で、ライブになると更に強烈なドライブ感が加わる鉄壁サウンドだった。
バック・オウエンス&ヒズ・バッカルーズの数々のオリジナル・アルバムには1曲か2曲のインスト・ナンバーを含んでいる作品が多くて、今回紹介する「ドン・リッチ・アンソロジー」はそれらのアルバムと、バッカルーズ名義のアルバムからドン・リッチがメインで歌ったり弾いたりしている作品を集めたコンピレーション盤だ。
ロイ・ブキャナン以降テレキャスターを看板に掲げたギタリストが何人かいるが、その多くのプレイヤーがテレキャスターという楽器に固執するあまり音楽性を犠牲にした感があるのに対し、ここで聞ける音はギターと音楽性、そしてテレキャスターの音の魅力をも充分に活かしきっていて、楽しい事この上ない。
ドン・リッチが優れたギタリストである事はもちろんだが、このアルバムに収録された24曲のうち21曲がドン・リッチの作品であるか、他者との共作になっていて、さらにヴォーカルやフィドルも披露するという多才なところを見せている。

アルバムは彼らのテーマ曲といってもいい「Buckaroo」からスタートする。
正確に云えばこの曲でギターを弾いているのはドン・リッチではなくてバック・オウエンスなのだが、彼らのインストを語る時決して忘れる事は出来ない代表的な曲である。
あのエミルー・ハリスが「Last Date」(1982年)というライブ・アルバムのラストで、やはりバック・オウエンス・ナンバーの「Love's Gonna Live Here」とメドレーでテレキャスを抱えてこの曲をやっており、そちらもなかなかの好演奏である。
また2000年に初CD化されて、その全貌が明らかになったバーズの1969年フィルモア・ライブでもこの曲を取り上げており、クラレンス・ホワイトのストリング・ベンダーでこの曲を楽しめる。
全然関係ないが、Booker T & The MG'S が1966年に「Booker-Loo」というタイトル以外全く似ていない曲を録音しているが、これはバック・オウエンスの「Buckaroo」録音の約1年後にあたり、何かインスパイアを受けての録音だったのかもしれない。
13曲目の「Sad Is The Lonely」はバッカルーズ名義の「A Night On The Town」というアルバムに収録されていた美しい曲であるが、これを聞くとロイ・ブキャナンを彷彿とさせるものがあり、カントリー・ミュージックにも造詣が深かったというロイのルーツの一端を垣間見たような気がする。
15曲目の「Chaparral」は13曲目の「Sad Is The Lonely」と同じ1968年に発表された「A Night On The Town」に収録されていた曲で、時代は異なるがベンチャーズがフェンダーを使用していた初期の時代と音が似ていて、ノーキー・エドワーズのプレイでこの曲を聞いてみたかった気がする。
このアルバムはそのタイトルが示すようにドン・リッチのアンソロジー・アルバムであるから、ドン・リッチのプレイが中心になるのは当然であるが、バッカルーズにはトム・ブラムリーというペダル・スティールの名手がいて、実はそちらも聞き逃すにはあまりに勿体ないのだ。
もちろん本作でもペダル・スティールはたっぷりと聞けるが、彼らのアルバムにはトム・ブラムリーのプレイをフューチャーした曲も結構あって、それらの曲は本作では割愛されている。
だがドン・リッチのギターにしても、トム・ブラムリーのスティール・ギターにしてもバック・オウエンスの歌と絡むものに素晴らしいものがたくさんあり、実はそちらが本筋であると思うのだ。
そんな訳で彼らのオリジナル・アルバムも是非聞いて欲しいのだが、バック・オウエンス&ヒズ・バッカルーズにはインストばかりを集めたアルバム「The Instrumental Hits」もあり、これもファンには必聴だと思う。
だがこのアルバムはあくまでもバック・オウエンス&ヒズ・バッカルーズのアルバムであり、バック・オウエンスがリード・ギターを弾いたり、ドン・リッチはギターよりもフィドルをプレイする割合が多かったりで、ドン・リッチのギターを聞きたい向きには消化不良が残る。
そういう意味では今回リリースされた本作はファンにとってまたとない嬉しいアルバムなのである。
そして本作を聞いたらオリジナル・アルバムにも耳を傾けて欲しい。
残念な事にドン・リッチは1973年に事故で他界してしまったが、本CDの16ページに及ぶブックレットにはかつての同僚達のコメントが寄せられている。
その中でバック・オウエンスは「今まで云った事がないが・・・」と前置きした上で「ドン・リッチが亡くなった時に私の音楽生活は終わった」と語っており、事実バック・オウエンスはドン・リッチの死を境に活動休止に近い状態になっていった。
ドン・リッチがあの偉大なカントリー・シンガーの単なるお抱えギタリストではなかった事がこの事実を見ただけでも良く分かる。
バック・オウエンスの言葉を借りるまでもなく、一連のアルバムを聞いてみればバッカルーズのサウンドを決定付けたドン・リッチの存在の大きさは疑いようもなく、主力エンジンを欠いたバック・オウエンスが一線から退いていった経緯は想像に難くない。
バック・オウエンスはこのコメントを「けれども私は“あそこで”彼に会えるでしょう」という言葉で結んでいる。

Buck Owens And His Buckaroos
The Instrumental Hits

( SUNDAZED SC 6049 )
01 Buckaroo
02 Orange Blossom Special
03 Raz-Ma-Taz-Polka
04 Faded Love
05 Bud's Bounce
06 Country Polka
07 Bile'Em Cabbage Down
08 Steel Guitar Rag
09 A Maiden's Prayer
10 Buck's Polka
11 Country Rag
12 Mexican Polka
13 Act Naturally ( Instrumental Version )
14 I've Got A Tiger By The Tail ( Instrumental Version )


1965年にキャピトルから発表されたバック・オウエンス&ヒズ・バッカルーズのインストヒット集。
ドン・リッチのギターを楽しみたいという人には欲求不満が残るが、「バッズ・バウンス」や「スティール・ギター・ラグ」など、トム・ブラムリーのスティール・ギターをフューチャーした作品が収められているのが嬉しい。
彼らが得意としたポルカが多数収録されていて、ドン・リッチのギターの出番が少ないとはいえ充分に楽しめる内容だ。
それに先に紹介した「ドン・リッチ・アンソロジー」と曲のダブりが少ないのが嬉しい。
彼らには「イン・ジャパン」と「カーネギー・ホール」という2枚のライブ・アルバムがあり、そちらでもドン・リッチのギターがたっぷり楽しめる。
いずれもCDで入手可能。