ディープ・パープル
マシンヘッド・ライブ

〜ライブ・イン・デンマーク 1972〜

Disc-1
01 Highway Star
02 Strange Kind of Woman
03 Child in Time
04 The Mule

Disc-2
01 Lazy
02 Space Truckin'
03 Fireball
04 Lucille
05 Black Night
VPCK-85317
Purple Records
株式会社Vap


この作品はもう10年以上も前に映像ソフト化されていたのでファンの間では既に広く知れ渡っていたが、2003年初頭に初CD化されて新たにお目見得したものだ。
1972年のディープ・パープルといえば初の日本公演を行った年でもあり、紆余曲折いろいろあったパープルの歴史の中でいちばん良い時期だったと云える。
後にパープル破綻の原因となったリッチーとイアン・ギランの確執は映像からはあまり見えず、終始和やかな雰囲気でステージが進行しているのが分かるし、ステージ上で笑顔を見せるリッチーというのも本作ならではだ。
1972年3月1日にデンマークのコペンハーゲンで収録されたという本作は、同年2月に開始された北欧ツアーの一環であった。
言うまでもなくこの時は、後にパープルの代表作として語り継がれる事になる「マシンヘッド」をリリースした直後という事で、マシンヘッドのプロモーション・ツアーかと思いきや、必ずしもそうではなかったようだ。
その辺の所は本作の解説に詳しい記述があるので読んで頂ければ良いが、何れにしてもパープルの最良の時期の演奏を記録した作品である事に違いはない。
映像作品を持っている方は御存知かと思うが、本作の映像は酷いものだ。
百歩譲ってこのソフトがモノクロである事には目をつぶっても、映像のスイッチングの悪さにはイライラさせられる。
リッチーがソロを弾いていても画面にはイアン・ギランが長々と映されていたりして、精神上甚だ不愉快なのだ。
どんな音楽のジャンルでも映像でソフト(番組)を作る場合には、音楽を熟知した人が制作をするべきだという基本的な事を教えてくれる格好の材料になってしまった。
この時のパープルが非常に良い演奏を聞かせているのに対し、このテレビ番組の制作者には何の音楽的知識もなく、ただ仕事だから撮っているという態度があからさまな腹立たしい作品になってしまた。
だから逆に苛立たしい映像がないCDはパープルの音楽に集中出来て非常に具合がよろしい。

演奏されている曲は「ライブ・イン・ジャパン」とほぼ同じであるが、演奏はけっこう違うので新鮮な気持ちで楽しめる。
個人的な好みで言わせてもらえば「チャイルド・イン・タイム」や「レイジー」などは本作に収められているテイクの方が好きである。
「ライブ・イン・ジャパン」で聞けるこれらの曲の演奏も血気迫るような緊迫感があって凄いが、本作の方はそれに比べてやや冷めた印象がある。
ライブというのは面白いもので熱狂的に興奮している状態はもちろん凄いし、自分がその場にいてその興奮を体験していれば尚更印象深く凄いライブだったという想い出になると思う。
しかしほんの少し冷めていてミュージシャンに冷静さがある方が音楽的には良いという事がしばしばある。
この日のコペンハーゲンでのライブがどういう状態だったのか正確には分からないが、そんな冷めた印象をほんの少し感じているのは私だけであろうか。
話はちょっと逸れるが、日本で行われる外タレのコンサートというのは、どうも日本向けにアレンジされているような気がしてならない。
これはパープルに限った事ではないのだが、日本公演のライブと海外で行われたものと比べると、どうも海外で行われたコンサートの方が良いような感じがするのは気のせいなのだろうか?
本作の場合も、音質の悪さを除けば「ライブ・イン・ジャパン」よりもこちらの方が私は好きなのだ。
気負いのない普段着のパープルという気がするのだ。
生真面目な印象さえ漂うリッチーのギターはこの頃ならではのものだし、全盛期の音として忘れる事が出来ない「ブラック・ストラト」を使っているのも興味深い。
この数ヶ月後に行われた日本公演で「ブラック・ストラト」が使われたのかどうか私は確認していないが、写真などを見るとサンバーストのストラトを弾いているものが多く、既に「ブラック・ストラト」はメイン・ギターではなかったのかもしれない。
実際このギターの違いこそが「ライブ・イン・ジャパン」と本作の音の違いなのではないだろうか。
もっとも「ライブ・イン・ジャパン」でのリッチーの音は信じ難い程に“まろやか”で、かなり作られた音だという気がするが、それ以前に基本的な音の違いがあるような気がする。
何れにしても60年代後期仕様の「ブラック・ストラト」がパープル全盛期前半のリッチーの音を印象付けたのは紛れもない事実で、その類い希なテクニックとパフォーマンスでリスナーを惹き付けた陰にはこのギターの存在が大きいと思う。
このギターの後、70年代初期仕様と思われるサンバースト・モデルを使っていたが、やはり音が違うようだ。
特にパープル3期からレインボウまで長きに渡って使われたナチュラル・ボディのストラトは音が薄くて、より歪みを増す事で音の厚みを得ようとしていたように思える。
ずいぶん話が逸れてしまったが、私のような年代、つまり1972年の日本公演を見たような初期からのファンにとっては、本作のCDで聞けるようなリッチーの音がいちばん好きなのではないかと思うのだ。・・・・私だけか?

「スカンジナヴィアン・ナイト」と並んで各曲の演奏時間が長い・・・・・という事はそれだけジョンやリッチーのソロが長いという事であり、「イン・ジャパン」とはいささか趣が違う各人のプレイが大いに面白い。
何回も述べているようにCDとしての本作の音質は決して良いとは言えないが、ここに収められたパープルのパフォーマンス、そしてリッチーのプレイは全盛期の勢いが感じられる素晴らしいものだと思う。
第3期のパープルは商業的には成功したのかもしれないが、パープルとリッチーのもっとも“それらしい”プレイが聞けるライブは本作、「ライブ・イン・ジャパン」そして本サイトでも既に紹介済みの「スカンジナヴィアン・ナイト」で、それぞれに違う良さが凝縮された、パープル・ファン必携のアルバムだ。
聞くところによるとBBCの倉庫には色々なライブ音源が貯蔵されているそうで、その中でもパープルの音源はいちばんの目玉としてCD化の動きもあるようだから今後に期待だ。