カントリー・ミュージック・フーテナニー
Country Music Hootenanny

Side-A
01 Openinng Introduction
02 Y'all Come(Cousin Herb Henson)
03 Act Naturally(Buck Owens)
04 This Old Heart(Bobby Morris)
05 Down To The River(Rose Maddox)
06 Your Mother's Prayer(Buddu Cagle)
07 Green Corn(Kentucky Colonels)
08 Blue Ridge Mountain Blues(Johnny Bond)
09 Paper Of Pins(Joe & Rose Lee Maphis)
Side-B
01 Intoroduction
02 I Got Mine(Tommy Collins)
03 You Took Her Off My Hands(Glen Campbell)
04 Foggy Mountain Top(Jean Shepard)
05 Silver Bells(Roy Nichols)
06 Midnight Special(Merle Travis)
07 Comedy Routine(Roy Clark)
08 Alabama Jubilee(Roy Clark)
09 God Be Wiyh You(Cousin Herb Henson)
10 Hurry Back(Cousin Herb Henson)
1963年9月12日
カリフォルニア州ベイカース・フィールド録音

Capitol ECR-8180(国内盤)


1963年にリリースされた幻のライブ盤。
大雑把に言ってしまうとカントリー・ミュージックはアメリカのナッシュビルを中心に発展したワケだが、その甘い音楽性に反旗を翻すようなカタチで60年代には西海岸のベイカース・フィールドを中心にしたカントリーが台頭してきた。
そのサウンドはベイカース・フィールド・サウンドとかカリフォルニア・サウンドなどと呼ばれたが、カラッと明るいサウンドは新たなカントリー・ムーブメントとして広く大衆に支持されて、ナッシュビルに対抗して一大勢力を築くことになる。
本盤はそのベイカース・フィールド・サウンドが本格的に開花する直前のライブ・レコーディングで、カズン・ハーブ・ヘンソンTVショーの10周年を記念して開催されたコンサートの記録だ。従って各シンガーは1曲か2曲の演奏だが、来るべき“自分達の時代”を確信したような自信に満ちた演奏が聞ける。
新進勢力が古い勢力を越えるというのはどんな世界にもあるが、そういう時の新しい勢力の勢いには凄まじいエネルギーがあるものだ。それだからこそ古い勢力を乗り越える事が出来るワケだが、本盤で聞ける音には前述した自信と共に勢いが感じられる。
この日のステージは多彩な出演者で賑わいを見せるが、まずは主人公であるカズン・ハーブ・ヘンソンの「ヨール・カム」から始まる。
この歌を知っている日本人は誰しも同じように聞こえると思うのだが、この歌の歌詞は「ヨーカン」と言っているとしか我々には聞こえない。
従ってみんな“ヨーカンの歌”として認識しているワケだが、ノリが良く憶えやすいメロディを持ったこの曲はオープニングに最適だ。
私事になるが、かつてアメリカのナッシュビルに行った時我々一行だけの為に野外コンサート(・・・というよりも野外バーベキュー・パーティにシンガーが来てくれたという趣であった)を開いてくれた事があり、一通りのライブが終わってみんなで歌おうという事になった。その時に一番最初に歌われたのがこの「ヨール・カム」で、詳しい歌詞を知らなくてもリフレインの部分だけみんなで合唱できて、それは楽しい想い出となった。
まあそんなワケで誰にでも親しめるオープニングに最適の曲が「ヨール・カム(Y'all Come)」という事になる。
この日のステージでも会場は大合唱で最初から大ノリの盛り上がりを見せる。
この日全体のバック・バンドを務めたのはジョー・メイフィスのバンドだった「トレイディング・ポスト」という事になっていて、それは本作の日本盤解説にも記されているのだが、これには異説もあるのだ。残念ながらその詳細をここに記すだけのウラがとれていないので、ここでは解説に書かれている通り「トレイディング・ポスト」ということで話をしたいと思う。
確かに「ヨール・カム」の間奏で聞けるちょっとハードなギターは、例えばドン・リッチのプレイなどとは違うように感じられ、どちらかといえばロイ・ニコルスに近い感じの演奏だ。
振り返ってみれば1963年といえばベンチャーズが使用ギターをフェンダーからモズライトにチェンジした年で、ハードな音のギターにはまだ馴染みが薄かった筈だ。
しかし、こうしたカントリー・ミュージックのライブでは後のベンチャーズも顔色を失う程の演奏が行われていたのが非常に興味深い。

前曲を受けて登場するのはこの時期絶大な人気を獲得しつつあったバック・オウエンスだ。
後にビートルズのカバーによってカントリー・ファン以外にも広く知られる事となった「アクト・ナチュラリー」が演奏されているが、この時期ちょうどこの曲がヒット中だったという事もあり、会場はまたまた大盛り上がりとなる。
バック・オウエンスはこのステージの3ヶ月程前に名盤「オン・ザ・バンド・スタンド」をリリースしてその人気を不動のものとしていく時期で、坂を駆け上がっていく勢いのある演奏が聞ける。
後にバック・オウエンスは何枚かのライブ盤を出すが、その中でも最も若い時期の演奏が本作で聞けるワケで、ファンには必聴である。
もちろんドン・リッチの瑞々しいテレキャスター・サウンドが聞けるのも大きな魅力だ。
どうも話が長くなりそうな気配なので、この日出演したギター弾き中心に話を進めて行こうと思う。
9曲目でジョー・メイフィス夫妻が登場。
ジョーはトレード・マークとなったダブル・ネック・ギターを抱えクリアーなサウンドを聞かせる。
ここでは得意の早弾きはあまり聞かれないが、クリア・トーンのギターの音色と掛け合いによる歌が楽しい雰囲気を出している。

個人的にこのアルバムのハイライトはマール・ハガードのバンドであるストレンジャースのギタリスト、ロイ・ニコルスのプレイが聞ける事だ。
バック・オウエンスと共にベイカース・フィールド・サウンドの立て役者ともなったマール・ハガードのバンドでギターを弾いていたロイ・ニコルスであるが、その初期のアルバムに於いてはジェームス・バートンがギターを弾くなど、何となく不遇な状態にあった感がある。
しかしその実力はドン・リッチに一歩も引けを取る事はなく、ある意味異彩を放つロイのプレイは非常に魅力的だ。
本サイトでも既に紹介済みのマール・ハガードのライブ「ファイティン・サイド・オブ・ミー」でもロイの素晴らしいソロが堪能出来るが、本作で聞ける演奏はそれよりも7年を遡る古いものだ。
ロイの実力を知らしめる演奏としては「ファイティン〜」に収録の「スティーリン・コーン」よりもここで聞ける「シルバー・ベルズ」の方が良いと思う。
2分30秒程の短い演奏であるが、ドン・リッチとは明らかに違う演奏スタイルをはじめ、テレキャスターの音色、そして途中でほんの少し聞かせるチェット風ギャロッピングなど聞き所は多い。
もっともっと多くの人に知ってもらいたいテレキャスター使いだ。

続いて登場するのがマール・トラヴィス。
マールのライブでの演奏についても本サイトで「ハンク・トンプソン」のライブ盤で若き日の演奏が聞けると紹介をしているが、実際にはその時のマールの年齢は40才代半ばでそんなに若くもないのだが、私は年をとってからのマールしか知らないので40代半ばでも充分に若いと言えるのだ。
本盤はハンク・トンプソンのライブの2年後の演奏であるからマールは更に2才歳をとっているワケだがギタリストとしては円熟の時期だったと云えるだろう。
「ミッドナイト・スペシャル」を力強く歌い弾いて聞かせる。
ギタリストとして最後の登場はロイ・クラークだ。
この人も何枚かのライブ盤を出しているが、私が知る限りの中で最も良いのはラスヴェガス録音の「ロイ・クラーク・ライブ」だ。
しかしこの時期のアルバムというのはどうも不親切でオリジナル・リリースの時期が記されていない。
私が持っている国内盤は1973年のリリースだがオリジナルはもう少し古いような気がするのだ。
まあどっちにしても本作のレコーディングが1963年というのは「ロイ・クラーク・ライブ」より古いテイクと考えられ、レアな貴重音源と云える。
ロイのステージではお馴染みのコメディ・・・というよりも日本の感覚で言えば小咄で観客を沸かせてから演奏に入っていくというパターンがここでも見られる。
前出の「ロイ・クラーク・ライブ」でもこのコーナーが結構長いのだが、残念ながら言っている事が良く分からず、悲しい思いをするのだ。
演奏している曲はロイの18番、「アラバマ・ジュビリー」だ。
この曲はロイのライブ盤には必ずといって良いほど収録されていて、近年のライブでは年齢から来る衰えか、力強さに欠ける演奏が目立っていささか面白味に欠けるのだが、1963年録音の本作では力強く勢いに満ちた演奏で、これが本当のロイの姿だと叫びたい気分だ。

ギタリスト中心に話を進めてきたが他のヴォーカル曲も良い。
特に私が気に入っているのはグレン・キャンベルが歌うレイ・プライスのB-3で、ペダル・スティールのイントロからして正統的な雰囲気に満ちた美しい歌だ。
またジーン・シェパードの「フォギー・マウンテン・トップ」では印象的なギター・ソロも聞ける。
ショーは「また逢う日まで」という邦題が付けられたヒムで、私が大好きな「God Be With You」を会場のオーディエンスと大合唱して終盤を迎える。
このライブの後にベイカース・フィールド・サウンドは大きく開花して行くワケだが、本盤に収められた演奏の数々はその直前の熱い雰囲気を記録した貴重なものだ。
私は未確認だが本盤がCD化されているという情報もあり、もしも店頭で見付ける事があったら“買い”の作品だ。