チェット・アトキンス/ドク・ワトソン
リフレクションズ

01 Dill Pickle
02 Me and Chet Made a Record
03 Flatt Did It
04 Medley: Tennessee Rag/Beaumont Rag
05 Medley: Texas Gales/Old Joe Clark
06 You're Gonna Be Sorry
07 Goodnight Waltz
08 Don't Monkey 'Round My Widder
09 Medley: Black and White/Ragtime Annie
10 On My Way to Canaan's Land
RCARPL-8062(国内盤)
1980年作品
(ジャケットをスキャンしてみたらあまりに汚いので
我ながら驚いたが、これしか持っていないのでお許
し頂きたい。)


1980年のチェット会心の1作。
他のところでも述べたが、このあたりがチェットが本来のチェットらしさを残した最後の作品なのではないかと思う。
この後のチェットはフュージョン系に寄っていき、それはいかにチェット・ファンといえども好みが分かれるところだと思う。
チェットがフュージョンやジャズっぽいアプローチをするのは以前にも見られた事で、決して新しい試みという訳ではないが、チェットが全体的方向としてフュージョン系に寄っていくのは1980年代以降に、より顕著になった事だ。
もっともフュージョン系へ寄っていくのと共に、それこそ“滋味”という形容がピッタリの安らぎ方向にも進む訳で、それが最晩年の良質アルバムへと結び付いていった、言ってみればチェットの集大成期でもあったわけだ。

このアルバムに収められた曲はチェットが長年親しんできた馴染みの曲が多く、自分のルーツに帰ったかのような活き活きした演奏が聞ける。
ドク・ワトソンとの絡みも申し分なく、チェットの真骨頂が発揮された傑作といって良いだろう。
チェットの大きな魅力はギターのテクニックばかりでなく、卓越した音楽性や高いアレンジ能力にあると思う。
チェットがギタリストとして自身のアルバムをリリース出来るようになったのは、プロデューサーとしての功績が認められた御褒美のようなものだったらしい。
他のアーティストのプロデュースをやって結果を出すという事は、当然高い音楽性と市場に対する認識が要求される訳で、それは天賦の才というべきものなのだろう。
そんなチェットの能力をまざまざと見せ付けられるのがこのアルバムだといえる。
「スタンダード・ブランズ」もそうだったが、このアルバムが録音された頃の録音技術というのは格段の進歩を急速に遂げた頃で、この作品の音も今日聞いても色褪せて聞こえるものではない。
インスト6曲に歌入り4曲の合計10曲収められたこのアルバムで聞けるチェットのギターの音色は美しいの一語に尽きる。
また、チェットは過去にいろいろなギタリストと共演したアルバムを残しているが、その何れの作品に於いてもチェットを弾き負かしたギタリストは存在せず、この作品に於いても同様の結果になった。
国内盤に添付されているライナー・ノートによるとこの作品が録音される前日、つまり1979年9月24日にナッシュビルにある「スペンス・マナー・ホテル」の206号室でジャム・セッションが行われ、その延長のような和やかな雰囲気で本作が録音されたという事だ。
その様子は演奏を聞いてみれば容易に理解でき、張りつめた緊迫感という状況は音からは感じられない暖かい雰囲気で、お互いに演奏を楽しんでいる様が見えるようだ。
しかし、ファンとしては前日にホテルの一室で行われたというジャムというのも気になる。
どんな曲を演奏したのだろう、録音はしなかったのだろうか、・・・なんていう事が気になってしまう。

さてこのアルバムで聞けるチェットのギターであるが、お馴染みのリゾネーター・ギターとハスカル・ヘイルのガット・ギターを使っている。
チェットはかなり多くのアルバムを残しているが、その中でも最高ランクに位置する音の良いアルバムだと思う。
そしてギター・プレイに関してもチェットの白眉のひとつだと云えるのではないか。
特に「グッドナイト・ワルツ」でのリゾネーター・ギターの音色と演奏の美しさはタメ息が出る程で、私の大のお気に入りの1曲だ。
あまりにこのテイクが好きでチェットのパートを全て諳んじてしまった程だが、こういう演奏でチェットが見せる曲の解釈能力はギターのテクニック以上に重要な部分で、技術的にチェットを上回るギタリストが出現したとしても、こういう天賦的な部分まで含めたチェット以上の存在というのは今後は有り得ないのではないかと思わせてしまう、チェットのいちばんチェットらしい部分だと思う。
「ディル・ピックル」や「テネシー・ラグ/ボーモント・ラグ」そして「ブラック・アンド・ホワイト/ラグタイム・アニー」などで聞かせるガット・ギターの美しさも聞き逃せない。
まるでエレキ・ギターのピック・アップ切り替えのトグル・スイッチを操作したかのように音の表情が変化するのは素晴らしい限りだ。
一台のギターがチェットによって生命を吹き込まれ、様々な音色の変化を聞かせてくれるのは他のアーティストではなかなか味わえるものではない。ギターを自在に操り、歌わせる事が出来るチェットこそが成せるワザだ。
私にとってはチェットがガット・ギターを使用したアルバムの中で本作がいちばん気に入っており、聞き過ぎで溝を傷めてしまったLP盤を引退させてCDを購入しようかと思っているところだ。