Chet Atkins
Rare Paformances
1976-1995

1976
01 I'll Say She Does
1977
02 Hawaiian Wedding Song
1978
03 Cascade
04 Don't Think Twice It's All Right
05 Kentucky
06 Stars and Stripes Forever
1979
07 You Needed Me
08 Dance With Me
1980
09 Malaguena
1982
10 Sukiyaki
11 Me and Bobby McGee
1987
12 Knuckle Buster
1991
13 Blue Angel
14 I Still Can't Say Goodbye
1992
15 Rainbow
16 There'll Be Same Changes Made
17 Yankee Doodle Dixie
18 Medley
  Windy&Warm/Mr.Sandman/Wildwood Flower
  The Bells Of St.Mary/In The Good Old Summertime
  Freight Train/Yakety Axe
19 Young Thing
1995
20 Happy Again
21 Lover Come Back

私にとって最愛にして最高のギタリスト、チェット・アトキンスがこの世を去って、早くも3ヶ月の月日が過ぎ去ってしまったが、その間日本の音楽メディアで「ミスター・ギター」の死を悼み、その偉大な功績を称える特集や記事などを見る事はまったくと云っていい程出来なかった。
聞いた話によると、日本は世界の他の国々と比較してもチェットのファンが多い国だという。
もうずいぶん昔の話になるが、私がアメリカに行った時にチェットのレコードを求めて、ナッシュビル、ロス、シカゴなどのレコード・ショップをずいぶん回った事があったが、結果的に大した収穫は無くて、却って日本のレコード店の方がチェットの品揃えは豊富だと感じた事がある。
私の乏しい経験だけで決めつけるのは危険だが、確かに日本にはチェットのファンが多いように感じられる。
2年程前に「ONE WAY」からチェットの音源がCDによる2イン1パックで発売された時にも、都内のCDショップで何人もの人がそのCDを複数枚購入しているのを見て驚いた事がある。
ああそれなのに、チェットの死後、日本の音楽メディアは全く何もしていない。
悲しいかな、技術大国日本の文化レベル、特に音楽を取り巻く環境はこの程度なのである。
今のところCDなどでも「追悼企画」なんて話は一向に聞かないが、やっとこうして1本のビデオがTABギター・スクールからリリースされたのは嬉しい限りである。
熱心なファンなら同社から出ている「Rare Paformances 1955-1975」を既にお持ちだと思うが、今回のビデオはその続編というカタチで1976年から1995年までのチェットの姿を捉えた貴重なものだ。

1曲目は1974年にリリースされたジェリー・リードとの共演盤、「Chet Atkins Picks On Jerry Reed」のA面トップに収められていた「I'll Say She Does」だ。
個人的にはジェリー・リードとの共演盤の中では本作がいちばん好きで、特にこの曲とB面トップの「Baby's Coming Home」が好きだったので、この選曲は私にとってはうれしいものだ。
愛弟子ジェリーと愉しげにこの曲を弾いているチェットの姿が今となっては切ない感じさえしてしまう。
ジェリー・リードは大胆にカットされた例のヘンテコリンなガット・ギターを弾いているが、まるでリハーサルなんてまったくやらなかった「ぶっつけ本番」という趣で、チェットの手の動きを見ながら即興でバックを付けているといった雰囲気が印象的だ。
また、「Knukle Buster」ではラリー・カールトンを従えた演奏が聞けたり、演奏はしていないもののジョニー・ギンブルやドク・ワトソンの姿が見えるなど、なかなか豪華な顔ぶれである。
なかでもアメリカ人にとっては特別な曲とも云える「星条旗よ永遠なれ」が見られるのは得をした気分だ。
いくら手の動きを見せてくれたところで土台コピーは出来ないのだが、この曲では特に手のアップが多いカメラワークが親切だ。
個人的な話だが、私はこの曲を作曲した「ジョン・フィリップ・スーザ」大好きであり、家にいてもマーチを観賞用音楽として楽しむことが多いのだ。
旋律が複雑に交錯するマーチをギター1本で演奏するのは難儀な事に違いないが、また一方ではマーチこそチェットのようなギター弾きには良い演奏素材に成り得たのではないかとも思うのだ。
チェット・ファンに人気が高い「ブルー・エンジェル」が聞けるのも嬉しい事だ。
ここで聞ける「ブルー・エンジェル」が録画されたのは1991年であり、1980年のライブ・アルバム(録音は1979年?)よりも10年余りも後の事であり、力強さという点に於いてずいぶん違う仕上がりだ。
しかし、演奏自体は1968年発売の「Hometown Guitar」での演奏に近くて、個人的にはこのビデオで見られるテイクの方が好きだ。
私はチェットと、ロス・インディオス・タバハラス、ジャンゴ・ラインハルトの3者は音楽的関係が非常に深いような気がしているのだが、この曲(作曲はタバハラスのナトー・リマ)を聞くと更にその思いは深まるのだ。
因みにジャンゴが1938年にロンドンで録音した「Please Be Kind」という曲は、タバハラスの雰囲気に似ているし、チェットがやっても似合いそうな曲だ。
この曲の映像の中で、ギターを弾くチェットの後ろで人の良さそうな顔をして微笑んでいるジョニー・ギンブルの姿が印象的だ。

このビデオの中で使っているギターは、デル・ベッキョのリゾネーター・ギター、今となっては珍しいグレッチのスーパー・アックス、お馴染みのクラシック・ギター(ハスカル・ヘイル?)、そしてギブソン・スタジオ・クラシックなどである。
どれも良い音をしているが、私の好みも充分に加味して特にクラシック・ギターが良い音である。
中でも良い音を出せるのはチェットだけとも云われている、ギブソン・スタジオ・クラシックの音もなかなか良い。
私は元来エレガットの音は嫌いなのだが、チェットが弾いた時のこのギターだけは別格だ。
チェットのあのギターがどういう改造を施されたのか知る由もないが、あんなに良い音のエレガットは他に聞いた事がない。
前出の「ブルー・エンジェル」などを聞いていると、結構エコーが掛けられているのが分かるが、その辺りも良い音を出すコツなのだろうか。
こうしてビデオを見ていると今更ながらチェットの死が残念でならない。
人がやがて死を迎えるのは当然の事だし、更に当たり前の事を云えば、チェットに代わりがいないのだという事を改めて思い知らされたという気がする。
今後、こういうビデオがもっと発売される事を切に願うし、このビデオに収録された各シーンが結構コマ切れ(演奏がコマ切れという事ではなくて、各プログラムではもっと他の曲もやっていたであろうという意味で)なので、それらのプログラムの完全版も是非見てみたい。
すべての映像が本邦初公開というワケではないが、チェット・ファンには嬉しい内容だ。