CHET ATKINS
IN CONCERT

1975年作品
RECORDED LIVE at the GRAND OLE OPRY HOUSE
Nashiville, Tennessee
RCA CPL2-1014
30cm LP 2枚組
Side-A
CHARLEY PRIDE
01 Kaw-Liga
02 Mississippi Cotton Picking
          Delta Town
03 Louisiana Man
DOLLY PARTON
04 Jolene
05 Love Is Like A Butterfly

Side-B
RONNIE MILSAP
01 That Girl Who Waits On Tables
02 Medley
  Slippin' And Slidin'
  I'm In Love Again
  Johnny B.Good
  Whole Lotta Shakin' Goin' On
CHARLEY PRIDE
03 Kiss An Angel Good Mornin'
CHET ATKINS
04 Chaplin In New Shoes
05 The Entertainer
Side-C
DOLLY PARTON and
          RONNIE MILSAP

01 Rollin' In My Sweet Baby's Arms
JERRY REED
02 Lets Sing Our Song
03 A Thing Called Love
04 Lord, Mr. Ford

Side-D
DOLLY PARTON
01 Coat Of Many Colors
02 The Bargain Store
GARY STEWART
03 Out Of Hand
CHET ATKINS and JERRY REED
04 Colonel Bogey
CHARLEY PRIDE
05 For The Good Tomes
CHET ATKINS and JERRY REED
06 John Henry




本文とは関係がないが、この写真は「IN CONCERT]
が収録された「グランド・オール・オープリー」のステ
ージであります。実は私もこのステージに立った事が
あるのです。
・・・とは云っても歌を歌ったとかギターを弾いたとか、
そんなカッコイイ事ではなくて、ただ単に見学をしただ
けでありますが・・・
でもここでチェットが「IN CONCERT」に収録された各曲
を演奏したのだと思うと感慨深いものがあって、鳥肌が
立つような感動を覚えたものです。
まさにカントリー・ミュージックの聖地なのであります。


この作品は1975年にナッシュビルのグランド・オール・オープリーで収録されたテレビ番組のライブ盤で、ドリー・パートン、ロニー・ミルサップ、チャーリー・プライドといった人気者が賑々しく出演しているのだが、このサイトの性格上ここではチェット・アトキンスとジェリー・リードに的を絞っていきたいと思う。
チェットは本作の後に1979年にもライブ・アルバムをリリースしているが、そのキャリアのわりにはライブ音源が非常に少なくて、本作で聞ける演奏はなかなか貴重なものだといえる。
ただ本作がチェットの単独アルバムではないという理由からか、このアルバムの存在の認知度は今ひとつであり、また本作の存在を知っている人でもオムニバス・アルバム故に当時は入手していなくて、今にして後悔しているという人も少なからず存在するようだ。
しかし、もしどこかの中古レコード・ショップなどで本作を見かけたら、それは間違いなく「買い」だ。
チェットの単独演奏は2曲だけだが、ファンの間で非常に人気の高い「チャップリン・イン・ニュー・シューズ」とスコット・ジョプリンが1902年に作ったという、これまた人気の高い「エンターティナー」を演奏している。
ファンにとってはこれだけで本作の価値は充分にある。
アルバムは30cmLPの2枚組で、前述の通り多くの人気歌手が出演しているが、ギター好きにとって興味深いのは2枚目のD面でチェットとジェリー・リードとのデュオが2曲収録されている事であり、更に2枚目のC面にはジェリー・リードの演奏が3曲収められているというのも嬉しい事だ。
さてチェットの演奏だが、「チャップリン・イン・ニュー・シューズ」はあのエヴァリー・ブラザースのヒット曲として有名な「バイ・バイ・ラブ」の作者でもある、ブードロウ・ブライアントがチェットの為に書き下ろしたという大変にメロディの美しい曲であり、またチェット・ファンの間ではコピーが難しい難曲としても知られた曲である。
かつて私はこのライブ演奏でこの曲を知ったので、後になってずいぶんアレンジの違うスタジオ録音を聞いた時には驚いたと同時に、かなりがっかりしてしまった事がある。
しかし、ここで聞かれる演奏はある意味でチェットの真骨頂ともいえるものだと思う。
お得意のギャロッピング・ソロから曲に入っていき、左チャンネルから聞こえる効果的なフェンダー・ローズの音などがこの美しい曲をさらに盛り立てているし、中央からやや右に定位しているアコースティック・ギターのカッティングの音なども、最近ではすっかり聞かれなくなってしまった良い音だ。
変なこじつけかもしれないが、アコースティック・ギターの事を略して「アコギ」などと表現するようになってから、アコースティック・ギターの良い音が聞かれなくなったような気がする。
話が逸れたが、相当な数にのぼると思われるチェットが残した録音の中で、「どの曲がいちばん好きですか?」と問われたら非常に困るに違いないが、その中でも私的には間違いなくベストテン、いやもしかしたらベストファイブに入るかもしれないのが本テイクの「チャップリン・イン・ニュー・シューズ」である。
チェットのプレイを象徴するギャロッピング奏法の確かさや、サビでのオクターブ奏法のカッコ良さ、そして何と云ってもチェットに相応しいメロの美しさや、そのメロディを活かしきるチェットのセンス等どれをとっても申し分ない。
だいたいにおいてアメリカにはギター演奏に適したメロの美しい曲が無数にあるようだ。
チェットの他のアルバムを聞いていてもしばしばメロディが美しい曲に出会える事が多いし、そういう曲を弾いた時のチェットは特に素晴らしい気がする。
そんなふうに思うのは、私がチェットのツボにまんまとハマッてしまったからに他ならないが、こうしてギター・プレイのみならず、そのプレイヤーの音楽性そのものを好きになれる事につくづくシアワセを感じてしまうのである。
続く「エンターティナー」も素晴らしい出来だ。
ちょっとでもチェットのギターをコピーしようとした事がある人ならわかると思うが、この曲も前曲同様ファン泣かせの難曲なのである。
1902年にピアニストのスコット・ジョプリンが作曲したという古いラグ・タイムの曲であったが、1973年にジョージ・ロイ・ヒル監督の映画「スティング」のテーマとして、マービン・ハムリッシュが演奏したのがリバイバル・ヒットのきっかけになった。
この映画のヒットは結果的にアメリカに巻き起こった30年代ブームの一躍を担う事になり、チェットがこの曲を取り上げたのはきっととてもタイムリーな選曲だったのだろう。
チェットは「昨年のナンバー・ワン・ソングだ」と前置きして演奏を始めるが、ここで昨年といっているのは1974年のことであり、それは前述の映画「スティング」公開の翌年にあたるワケで、いかにこの曲が全米でヒットしたか良くわかる。
ガットギター1本によるソロ演奏がナイロン弦の響きの美しさを際だたせている。
つい先頃チェットも天に召されてしまったが、そんな事を考えるにつけファンに人気が高い2曲がライブ演奏で残されたという事を、今更ながら有り難く思うのだ。
前にも云ったようにチェットの単独での演奏は2曲だけだが、愛弟子ジェリー・リードとの共演曲が2曲収録されている。
1曲目は有名な「ボギー大佐」で、もう1曲はショーのラストに演奏されている「ジョン・ヘンリー」である。
「ボギー大佐」は良く知られた曲であり、アメリカの曲だと思っている人も多いと思うが、原曲はイギリス海兵隊の軍楽隊長、ケネス・アルフォードという人によって作られた曲である。
1957年にアメリカ映画「戦場にかける橋」でこの曲が「クワイ河マーチ」として使用され大ヒットを記録したことから、原題よりも「クワイ河マーチ」としての知名度の方が高いかも知れないという数奇な?(それ程でもないが)運命を辿った曲である。
チェットは共演盤のリリースが最も多い愛すべき弟子であるジェリーと楽しげにこの曲を弾いている。
「ジョン・ヘンリー」ではこれといったギター・プレイを聞く事はできない。
フィナーレに出演者総出でこの曲を大合唱したという趣の仕上がりで、チェットもジェリーもギターに関しては聞くべきところは少ない。
また3曲収録されているジェリー・リードの曲も、ジェリーのギターを聞くという意味ではあまり大きな期待は出来ない。
ジェリーのものなら何でも持っていたいというようなアドマイヤー的ファンには必需だろうが、これも聞くべきところはあまり多くない。
やはり私のようなチェット・ファンにとってはチェットの演奏がすべてであり、また実際に1975年という円熟期に入ったチェットのライブ演奏が聞けるという意味で、大変に貴重なアルバムである。
くどいようだけで何処かで見つけたら「買い」ですよ。