チェット・アトキンス(Chet Atkins)
ホームタウン・ギター(Hometown Guitar)

Side-A
01 Big Daddy
02 Sittin' on Top of the World
03 Huntin' Boots
04 Blue Guitar
05 Cattle Call
06 Back to Old Smokey Mountain
Side-B
01 Sweet Georgia Brown
02 Blue Angel
03 Get on With It
04 Reed's Ramble
05 Pickin' Pot Pie
06 The Last Thing on My Mind
1968年
RCA LSP-4017


チェット1968年の快調な1枚。
1968年のチェットといえばこのコーナーで既に紹介済みの「Solo Flights」そして「Solid Gold 68」、さらにチェットと一緒にギターを弾こうというコンセプトの「Play Guitar With Chet Atkins」などがあり、なかなか充実した年だったようである。
正直言ってこのアルバムがチェットの作品の中で突出した出来だとは思わないが、チェット全盛期の勢いを感じさせるアルバムである事は間違いなく、決してファンを裏切る事のない作品だと思う。
ジャケットの裏に目を転じればこのアルバムの録音に参加したメンバーがチェットと一緒に写真に収まっているが、これらのメンバーの中にはウェルドン・ミリック(ペダル・スティール)を始めとするエリアコード615を構成した何人かの顔も見えるようだ。
そのせいなのかどうか分からないが、このアルバムは何となくチェットのギターだけに偏る事なく、全体のバランスが良いように感じられるのだ。

アルバムは1曲目からギャロッピングが冴える。
バンジョーのソロやコーラスなどが軽快に絡みながらチェットのギターが聞かれるが、こういうスタイルがチェット・ファンとしてはいちばん安心して聞けるのではないだろうか。
このアルバム全体としてコーラスや、バンジョー、ペダル・スティールなどが絡む構成が多く、他のチェットのアルバムと若干違う印象を得る。
特にここでペダル・スティールを弾いているウェルドン・ミリックはコニー・スミスのRCAに於ける一連のセッションでスティールを弾いている人でもあり、またビル・アンダーソンのバンドでも素晴らしい演奏を聞かせている名プレイヤーなのだ。
話はそれるがビル・アンダーソンのバンドのソロ・アルバムというものもあり、これには良いインストが多数収録されているカントリー系ギター・ファン必聴のアルバムなのだ。
話を元に戻すと、個人的にこのアルバムの中ではA面の6曲目に収録されている「Back to Old Smokey Mountain」のような曲が好みで、いかにもチェット好みと思える旋律とギャロッピングのスタイルがチェットの王道的雰囲気でなかなかヨロシイのだ。
ハーモニカとバックに聞こえるペダル・スティールが効果的に使われているが、こうして表面に出る事なくバックの雰囲気を盛り上げる脇役として、ペダル・スティールというのはなかなか特異な弦楽器だと思う。
他の注目曲としてはおそらくチェット・ファンの間では人気が高いと思われる「Blue Angel」だ。
1980年のライブ・アルバムにも収録されているが、そのライブ・テイクとここで聞かれるテイクとは少し違うアレンジになっている。
この曲が日本では「スター・ダスト」でお馴染みのロス・インディオス・タバハラスのナトー・リマの作品である事はチェット・ファンならご存知だと思うが、チェットとタバハラスの関係というのはかなり深かったように思える。
チェットが後に多用するようになったリゾネーター・ギターの使用もタバハラスとの出会いからだったし、62年の名作「カリビアン・ギター」に収録の「ジャングル・ドリーム」もナトー・リマの作品だ。
因みに「カリビアン・ギター」の1曲目を飾る「Mayan Dance」(元はベネズエラの作曲家:アントニオ・ラウロ作のベネズエラ風ワルツ第3番)は多くのクラシック・ギタリストが取り上げているが、タバハラスもやっているので興味がある方は聞いてみると面白い。
これは私の個人的感想だが、私にとってチェットの演奏にはタバハラス、ジャンゴ・ラインハルト、そしてジャズ・ギタリストのジョニー・スミスの影響が色濃く反映されているように思える。
もちろんチェットの類い希な才能は単なるコピーに終わる事なく、他の追随を許さない程の世界を構築しているが、どんなに才能豊かな人でも憧れるアーティストはいるはずだ。
ギャロッピングに関しては師ともいえるマール・トラヴィスの奏法を進化させたものだろうが、その他の音楽的部分全般に関してはマール・トラヴィスに負う部分は少ないように感じる。
話がそれたがこのアルバムにはジェリー・リードの作品も収録されている。
B-3の「Get on With It」がチェットとジェリーの共作で、曲調は違うがアップテンポの目まぐるしさが「ジェリーズ・ブレイクダウン」を彷彿とさせる。
この曲を良く聞いてみればジェリーとチェットの二人で共演しても良かったと思われるような曲構成で、せっかくなら共演したものを聞いてみたかった。
タイトルからして分かるようにB-4の「Reed's Ramble」もジェリーらしい作品だ。
この曲も前曲と同じように二人のギターのハモリがあったら楽しかろうにと思わせる作品だ。

このアルバムはB面で若干のガット・ギターの使用があるが、全体的にはエレキ・ギターの使用率の方が高く、ガットを弾くチェットに不満を持っている向きにも楽しめる内容だ。
チェットが良い作品を提供し続けた期間は驚くほど長いが、1960年代中期は割合と気合いの入った作品が少なくて個人的にはあまり面白くない時期だが、1967年の「Class Guitar」の頃からまた良い作品を連発するようになって、「Hometown Guitar」はその一連の盛り上がりのなかで製作されたものだ。
そしてこの流れは1969年の「Relaxin' with Chet」へと引き継がれていくのだ。

1997年にリリースされたロス・インディオス・タバハラスのコンピレーション盤。
1963年の「Maria Elena」と1964年の「Always In My Heart」が2in1になっていて、全部で24曲収録されている。本文中で述べたように、チェットもやっている「Jungle Dream」や「Mayan Dance」なども収録されているのがチェット・ファンには嬉しいが、それよりもギター・アルバムとして楽しい作品だ。
ロス・インディオス・タバハラスが好きだというギター・ファンにはあまりお目に掛かれないが、今一度是非注目して欲しいギター・デュオだ。
現在の所CD化されているのはベスト・アルバムが多いようだが、彼らにはクラシック・アルバム(LP2枚組)もあって、是非CD化してもらいたい作品のひとつだ。


1997年
Collectables Record
COL-2705