チェット・アトキンス
フィンガー・スタイル・ギター

Side-A
01 Swedish Rhapsody
02 Liza
03 In The Mood
04 Heartaches
05 Glow Worm
06 Dance Of The Golden Rod
Side-B
01 Petite Waltz
02 Adelita
03 Govotte In D
04 Unchained Melody
05 Waltz In A-Flat
06 Malaguena
1956年作品
1998年にONE WAY RECORDSから復刻され、現在
「Stringin' Along With Chet Atkins」と2in1のCDで入手可能
ONE WAY
OW 35128


チェットはアルバム・リリースの多い人で、その中でどの作品をベストとするか大変に迷うところだ。
音楽雑誌などでたまにチェット関係の記事を見付けても、そこで紹介されているチェットのアルバムはライターによって様々で、あまり一定した見解はないように思われる。
たまに「何故このアルバムをチェットの代表アルバムとして選んだの?」と質問したくなるような人もいるが、それはつまり人それぞれに思い入れのあるアルバムがあり、好みも千差万別だという事なのだろう。
かくいう私もどれかベスト作品を1枚選べと言われたら非常に困る。
だから少なくても私にとっては曲で選ぶ方が都合が良いのだ。
チェット名義のアルバムとして通算6枚目にあたる1956年作品の「Finger Style Guitar」は、私にとってまさにそんなアルバムなのだ。
今までこのアルバムがチェットの代表作として紹介されているのは見た事がないし、もしこれを紹介したとしたら、その紹介文を読んで初めてチェットのCDを買うかも知れない初心者にはもっと他のアルバムをオススメした方が良いとも思う。
つまりチェットの初心者にはオススメ出来ないけど、ある意味チェットの代表作と言っても過言ではないという回りくどい言い方になってしまうのだ。
この作品を聞いているといつもそんな思いが頭をよぎってしまう。
確かにこの作品は1953年の「Galloping Guitar」に始まり、Session With〜、Stringin' Along With〜,In Three Dimention〜と続いた若い力のみなぎるアルバムの中では若干印象の違う作品に仕上がっている。
だがこの作品で聞かれるチェットは前作までのゴリゴリと勢いで押してきたものに比べて、ちょっと引いた確かさが見られると思う。
簡単な言い方をすれば、ちょっと興奮から冷めて物事を冷静に見られるようになった・・・・というような雰囲気が濃厚なのだ。
もっと平たく言えば第一ステージ優勝みたいなものだろう。

1曲目の「Swedish Rhapsody」から最後の「Malaguena」まで文字通りチェットのフィンガー・スタイル・ギターによる世界が展開しており、多少のバック・サポートはあるものの他の楽器との絡みはなく、殆どチェットのソロともいえる内容で充分に楽しめる。
チェットのソロをフューチャーしたアルバムは他にもあるが、エレキ・ギターによるソロの中ではこの作品が作られた時代も考え合わせて最高とも言える素晴らしい内容だ。
ところで「Swedish Rhapsody」は非常にメロディの知名度は高いのだが、何故かタイトルはあまり知られていないようだ。
チェットはこのような曲をたくさん取り上げており、チェットのお陰で曲名を知ったという人も多い筈だ。
実は私もこの曲は某ロック・ギタリストがインプロビゼーションの合間にお遊び程度で弾いているのを聞いた時には曲名を知らなかった。
しかしチェットのお陰で曲名を知ったのだ。

話を戻すが、このアルバムはこれまでの作品と比べると、若干静かというか大人しいという印象を与えるが、決してそんな事はないと思う。
それは4曲目の「Heartaches」で最高点に達する。
実際に耳に届いてくる優しげな音とは裏腹に、凄いエネルギーを感じてしまうのは私だけだろうか?
このアルバム全体を通してそうなのだが、特にこの曲でのチェットは戦慄すら感じさせる鋭い演奏だ。
とは言ってもこれまでの作品のように若い勢いにまかせた力強く強引ささえ感じさせる演奏ではなく、かなり抑え気味なのだが、その抑えがまた絶妙にコントロールされていて、そこに凄さを感じてしまうのだ。
「爪を隠した鷹」みたいな感じで、もしかしたらチェットをあまり聞いた事がない人にこの曲を聞かせて「どうだ、凄いだろう」と言ってみても、賛同は得られない気がするのだ。
ある程度チェットを聞き込んで、いろいろなチェットを知らないとこの曲での凄さは分かってもらえないかとも思う。
言ってみれば「チェット・ファン御用達」の曲なのかも知れない。
この曲ほどではないが他の収録曲も素晴らしい。
前述のようにたまにリズム楽器がサポートしたりするが、ほとんどチェットのソロという印象を与えるこの作品は間違いなくこの時代のチェットの最高作といえる内容だ。
チェットはこの後「Hi-Fi In Focus」へと向かっていく訳だが、この頃のチェットは実に充実していたようで、その音楽からその充実ぶりは伝わってくる。
幸いな事にこの作品は現在1998年にONE WAYから1955年作品の「Stringin' Along With〜」と2in1で発売されており、入手は簡単だと思う。。
ついでに言うならこの2in1作品を聞けば、本作品と「Stringin' Along With〜」の大きな相違が良く分かると思う。
どちらも良い作品なので未所持の方は今のうちに入手しておいたほうが良いと思う。