チェット・アトキンス
ダウン・ホーム

01 Salty Dog Rag
02 I'm A Pilgrim
03 Trambone
04 Steel Guitar Rag
05 Little Feet
06 Blue Steel Blues
07 Windy And Warm
08 I Ain't Gonna Work Tomorrow
09 Never On Sunday
10 The Girl Friend Of The Whirling Devish
11 Give The World A Smile
12 Tuxedo Junction

One Way Records
OW35123
現在このCDは「The Most Popular Guitar」とのカップリング
で2in1仕様で入手可能。
左記のジャケット写真もCDから使用しました。


ダウンホームというと1970年にもナッシュビル・ストリング・バンド名義でリリースされたアルバムがあるが、こちらは1962年リリースの元祖「ダウンホーム」という事になる。
61年から62年にかけてのチェットは良い作品を連発していて、この作品の後に「Plays Back Home Hymns」、「Caribean Guitar」と素晴らしい作品が続くワケで、あらゆる意味で充実していた時なのだと思う。
いかにチェットといえども長いキャリアの中では波もあったわけだが、この時期のチェットは特に充実していたように感じられる。
私的には1曲目の「Salty Dog Rag」を聞いただけでノックアウトだが、こういうメロのきれいな曲でのチェット流のアレンジや演奏は本当に素晴らしく、何よりもチェットの魅力を活かせる曲のスタイルだと思われるのだ。
そういう意味で本作にはチェットの本領発揮といった趣の曲が数多く並んでいる。
オリジナル・ジャケットの解説によると本アルバムに収録されたのは「40年代スイング」、「黒人霊歌」、「60年代サウンド」、そして「ブルーグラス」と説明されているが、そういう事を一切無視(良い意味で)してチェットの音楽として成立している。
要はアメリカ・ポピュラー・ミュージックの根幹として重要な意味を持つカテゴリーから選曲されているワケだ。
だからというワケでもないのだろうが、ここで聞けるチェットのギター・・・(いやここは音楽としておこう )は活き活きと瑞々しい感じがするのだ。
どこか他の所でも述べたかもしれないが、一人のアーティストを好きになるという事は単にその人の歌とか楽器のプレイだけに惹かれるだけではない。
そのアーティストの音楽性をまとめて好きになる事だと思う。
だからこのアルバムに収められた曲を他のギタリストが演奏して、例えばそれが技術的にチェットを上回ったとしてもそれを好きになるかどうかは分からない。
少なくても私にとっては、プレイもアレンジの雰囲気も選曲もすべてまとめて「大好き」という感じがこのアルバムにはあるのだ。
冒頭に述べた「Salty Dog Rag」でノックアウトというのはそういう意味なのだが、他の収録曲も魅力的なものが多い。
中でもチェットの作品である「Trambone」はこのアルバムの白眉だろう。
楽曲的にも非常に魅力的な旋律を持つこの曲はチェットの音楽性を顕著に表していると思う。
特にサックス・ソロのバックで聞けるギターの美しさはどうだろう。
サックス・ソロの場面での主役は当然サックスである筈だが、この曲を聞くとき私はいつもバックのチェットのギターに耳が向いてしまい、そしていつも聞き惚れる。
「こんなんじゃやってられねぇよ」とサックス・プレイヤーがむくれてスタジオを飛び出してしまう、という事はなかったと思うが、ここでは完全にチェットのギターがサックスを凌駕している。
これは比較的珍しい事だと思う。
チェットはギターの神様(最近この言葉も安っぽくなったが)とも言われるプレイヤーだが、他のプレイヤーの領域を大幅に侵すような領域侵犯はあまり見られない。
そういう部分が本当のプロである事を見せてくれるわけだが、それはリスナーにとっても非常に聞き易い音楽の完成度となって耳に届くのだ。

またチェットとベンチャーズはしばしば同じ曲を演奏しているのが興味深く、この曲もベンチャーズとの競演になっている。
時にはベンチャーズ版の方が良いという事もあり、両者の比較というのも楽しいものだが、「Trambone」に限ってはやっぱりチェットの圧勝だ。
他の曲も良い出来のものが多い。
チェットが長年にわたって演奏を続けた「Windy And Warm」も良い雰囲気だし、メロディの美しさとチェットのギター・スタイルが見事にハマった「The Girl Friend Of The Whirling Devish」や「Give The World A Smile 」などは「またしてもやられた!」と叫びたくなるようなオーソドックスなチェット節で安心して身を任せられる。
こういうアルバムを傑作とは言わないのかも知れないが、チェットらしい魅力の詰まった1枚である事だけは確かだ。