Chet Atkins
CHET

Side-1
01 Foggy Mountain Top
02 Truck Drivers Blues
03 Bandera
04 Make The World Go Away
05 Oh Baby Mine( I Get So Lonely )

Side-2
01 Oklahoma Hills
02 Just out of Reach
03 Wabash Cannon Ball
04 Release Me ( And Let Me Love Again )
05 Goin' Down the Road ( Feelin' Bad )
RCA
RGP-1017(国内盤)
1967年作品

このアルバムは1967年に出されたチェットらしい雰囲気の漂う作品である。
結果的に1967年にはベスト物を含めて4枚のアルバムが出ているが、その中では本作がいちばんチェットらしく安心して聞ける仕上がりになった。
この作品の前に発表されたのは「Class Guitar」というガット・ギターのみで録音された意欲作で、本作を挟んで1968年になってからの最初の作品が本サイトでも既に紹介している「solo flights」であり、両作品ともカントリー・フィールド出身のギタリストとしてはいささか異色の作品である事は否めないと思う。
もちろん今日になって振り返ってみればどちらの作品もチェットのギター・キャリアからして何の違和感も感じないものであるが、これらの作品がリリースされた当時はどんな評価を受けたのだろう。
残念ながら私は1960年代後期にはまだチェットを聞き始めたばかりの頃なのでそれらの事は分からないが、例えば「Class Guitar」が昔からのファンに与えた影響というか、驚きというのは容易に想像出来る事である。
特にチェット=グレッチの方程式を持っていたファンにとっては大いなる失望を与えたのかもしれない。
そんな評価があったのかどうか定かではないが、今回紹介する「CHET」は手慣れたチェットのフィールド内で勝負をしている作品であり、「Class Guitar」で失望を与えたかもしれないファン達に再びチェット健在を印象付けようとしたのかもしれない。
私個人的には「Class Guitar」のような作品も大好きであるが、「CHET」のような作品はやはり聞いていて安心できる。

収録曲はチェットらしい曲が並んでいる。
ギャロッピングが軽快な、カーター・ファミリーでお馴染みの「フォギー・マウンテン・トップ」、チェット流ブルースともいえる「トラック・ドライバーズ・ブルース」、そしてチェットのオリジナルである「バンデラ」などバラエティに富んだ選曲だ。
前にどこか別の所でも述べた気がするが、ブルース・ミュージシャン以外のジャンルの人達がやるブルースというのも私は好きで、特にカントリー系のミュージシャンがやるブルースというのは、だいたい軽めに仕上がっている上に独特のグルーブが感じられて面白いものだ。
レイ・プライスなどで有名な「想い出のバラード」や「リリース・ミー」も良い出来だ。
どちらの曲も多くのアーティストが取り上げている超有名曲だが、ここでのチェットは本来ヴォーカル曲であるこれらの曲の雰囲気を壊すことなく見事にギター曲にまとめている。
「想い出のバラード」の和声展開は相変わらず美しい響きだし、「リリース・ミー」のシングル・ノート部分も美しい。
初めてこの「リリース・ミー」を聞いた時には何故にこのようなメロディ・ラインを発想出来るのか不思議に思ったものだが、それが天才と鈍才の違いだと思い知ったのだ。
ベンチャーズが「Play The Country Classics」というカントリー・ナンバーばかりを集めたアルバムで取り上げたり、ジョー・メイフィスなどもやっている人気曲「Wabash Cannon Ball」も、ギャロピングが軽快な楽しい曲だ。
チェットとベンチャーズというのはダブる曲がいくつかあり、この曲もその中の1曲であるが、聞き比べてみるのも面白い。
ベンチャーズも悪くないが、ワタシ的にはチェットのものが好きだ。
だが私にとってこのアルバムの中でのベスト・トラックはB-1の「オクラホマ・ヒルズ」だ。
ウディ・ガスリーの従兄弟にあたるジャック・ガスリーが1944年に発表したものだが、自身による名演はもとよりジム・リーブスを初めとして多くの人に愛唱されたオクラホマ賛歌だ。
日本人の私にはその辺の感覚は良く分からないが、「オクラホマ」、「カンサス」、「テキサス」といった州は西部開拓史のスタート・ラインとなった地域で、今なおフロンティア精神が尊ばれるアメリカに於いて象徴的なものがあるのかも知れない。
ウエスタン・スイングの第一人者として知られるハンク・トンプソンは1969年に「オクラホマ賛歌」というアルバムを出している程で、テキサスなどと並んで音楽的見地から云っても注目すべき州なのだ。
因みにハンク・トンプソンの「オクラホマ賛歌」というアルバムには「オクラホマ・ストンプ」という傑作インストが収められていて、豪快なビッグ・バンドをバックにペダル・スティールとギターがソロを取るというイカした構成で私が大好きなテイクだ。
話がそれたが、「オクラホマ・ヒルズ」のようなキャッチなメロディを持った曲をチェットがやった時の演奏はひときわ光る。
いつもの事だが和音と共にメロディが進んでいくのはチェットが得意とするパターンだし、時折聞かれるシングル・ノートもきれいな音だ。
エンディング近くになってギャロッピング奏法に変わり、やがてオクターブ奏法も聞かれるなど、チェットのすべてとは云わないがチェットの代表的なプレイがこの曲の中に散りばめられている、私のお気に入りの曲だ。
全体的に全盛期の力強さに溢れた好盤で、CD化が待たれるところだ。

これが本文中で引用したハンク・トンプソンの「オクラホマ賛歌」。
全編オクラホマを讃える曲で埋め尽くされており、並々ならぬオクラホマへの愛着が見て取れる。
ウエスタン・スイングの第一人者として知られているが、個人的にはギターやペダル・スティールが大活躍するテキサス・トルバドースの方が好きで、ハンク・トンプソンでは歌を中心に楽しんでいるような部分がある。
本作には収録されていないが、本サイトのテキサス・トルバドースを紹介したページの引用欄で紹介している、バディ・エモンズの「ローズ・シティ・チャイム」のオリジナルはこのバンドで、「シャイアンズ・フロンティア・デイ」というライブ・アルバムで聞く事が出来る。ペダル・スティール・ファンは必聴だ。