Chet Atkins
Almost Alone

01 Big Foot
02 Waiting For Susie B.
03 A Little Mark Musik
04 Jam Man
05 I Still Write Your Name In The Show
06 Pu, Uama Hulu
07 Happy Again
08 Sweet Ala Lee
09 Myabelle
10 Mr. Bo Jangles
11 Cheek To Cheek
12 You Do Something To Me
13 Ave Maria
COLUMBIA
CK 67497
1996年作品


この作品は1996年のリリースで、チェットの音楽活動に於ける最晩年の作品である。
決して傑作と呼べるようなアルバムではないと思うが、良品が多く詰め込まれた佳作と云って良い内容だ。
この翌年にリリースされた、「The Day Finger Pickers Took Over The World」は、トミー・エマニュエルとの共演作品なので、実質上この作品がチェットの単独作としてはラスト・アルバムになってしまった。
私個人の好みとしては、チェットが良かったのは1981年の「Standard Brands」あたりが最後であるという認識があり、その後の作品には何とも力の入っていない感じのものが多くて、消化試合のような雰囲気さえ漂うアルバムもあった。
せっかく入手したCDもあまり聞かない事が多いというのもこの時期の作品に集中している。
正直言ってこの作品にも期待はしていなかった。
でも実際に聞いてみるとこれが実に良いアルバムなのだ。
1924年6月20日生まれのチェットは、このアルバムを作った時点ですでに齢70才を越しており、当然の事ながら往年のような力強いプレイが聞けたり、人々を驚かせるようなトリッキーなプレイが聞けるワケではない。
しかし、すべてを達観したような雰囲気に加え、リラックスした優しさ、そして大人のおおらかさがこのアルバム全体を包んでいるのだ。
決して派手さはないが、この年令に達したチェットこそが成し得た事と云えるだろう。
録音はテネシー州ナッシュビルにあるCA Workshopで行われている。
「Almost Alone」のタイトル通り、ほとんどの曲を一人でやっているか、極めて少ない人数のバック・ミュージシャンのサポートを得ているだけだ。
要するにチェットのギターを楽しむのに最高ともいえる環境でレコーディングされているのだ。
でもそんな事より特筆したいのは、このアルバムに収められた楽曲の良さである。
全13曲の収録曲の内、7曲がチェットの作品であり、1曲が他者との共作、そしてアルバムの最後を飾る「Ave Maria」のアレンジャーとしてチェットの名前がクレジットされている。
1曲目の「Big Foot」が比較的テクニカルな面を強調した作品になっているが、その他はメロディのきれいな曲が多い。
かつてのように他者の追随を許さないという雰囲気の表面的なバカテクは聞けないが、チェットが積み重ねた集大成がここにあるような気がする。
アルバム全体を支配するゆったりとした安堵感にも似た心地良さは何なのだろう。
これこそがまさしく「円熟」と呼べる事なのではないだろうか。
このアルバムが60年以上もギターを弾き続け、そして頂点に達した男の最終到達点として相応しいと思うのは私だけであろうか。

前にも述べたように全体的に良い作品が多いが、特に私のお気に入りは6曲目の「Pu, Uana Hulu」と7曲目の「Happy Again」である。
後者の「Happy Again」はこのアルバムとほぼ同時期に収録されたビデオもあるので、まだ見ていない方は是非見ていただきたいと思う。
そしてもう1曲気になるのが5曲目の「I Still Write Your Name In The Snow」である。
何故かというとこの1曲だけがライブ・レコーディングされているのである。
これはファンなら大いに気になるところであろう。
たった1曲だけレコーディングしたという事は現実的には考えにくい訳で、この日に演奏された他の曲のテイクも必ず残っている筈であり、それらも是非フルトラックで聞きたいところである。

1950年代や1960年代のすごいチェットも良いが、この作品に聞けるチェットもしみじみ良いのだ。
前にも述べたトミー・エマニュエルとの共演盤がこの翌年にリリースされたり、単発的にゲスト参加した録音があるなど、決してこの作品がチェットの遺作でないのは承知の上だが、チェットの単独アルバムとして本作が最後の仕事になってしまったのは確かで、そういう意味では極めて素晴らしい置き土産をチェットは残してくれたと感謝したい。
古色蒼然とした木のイス、そのイスにもたれ掛かるように置かれたグレッチのギター、そしてセピア調に統一された色調など、ジャケット・デザインも今までと違う雰囲気でなかなか良い。