オールマン・ブラザース・バンド
ライブ・アット・アトランタ・インターナショナル・
ポップ・フェスティバル

Disc-1(1970.7.3)
01 Introduction
02 Statesboro Blues
03 Trouble No More
04 Don't Keep Me Wonderin'
05 Dreams
06 Every Hungry Woman
07 Hoochie Coochie Man
08 In Memory Of Elizabeth Reed
09 Whipping Post
10 Mountain Jam PartT
11 Rain Delay
12 Mountain Jam PartU


Disc-2(1970.7.5)
01 Introduction
02 Don't Keep Me Wonderin'
03 Statesboro Blues
04 In Memory Of Elizabeth Reed
05 Stormy Monday
06 Whipping Post
07 Mountain Jam






EPIC/LEGACY
E2K 86909


今年(2003年)の10月はオールマン・ブラザース・バンドのライブアルバムが毎週発売されるというファンにとっては嬉しい悲鳴の月となった。
すべてが新しい音源という訳でもないし、熱心なファンなら既に知っている音源であったかもしれないが、それはあまり一般的ではなくお店に行けば買えるという品物ではなかった。
そういうマニア御用達だった音源がこの時期になって店頭に並ぶというのはファンにとって非常に喜ばしい事だ。
発売されたのはすべて1970年頃の音源で、それはつまり夭折の天才ギタリスト“デュアン・オールマン”が健在だったころの演奏で、オールマンズの歴史上最も良かった時期だろう。
今回紹介するのは1970年に開催されたアトランタ・ポップ・フェスティバルのライブ音源で、この音源の一部はかつて「ワイト島ポップ・フェスティバル」の音源とカップリングでCBSソニーから3枚組のアルバムとして出ていたものだ。
話はいきなり横道に逸れるが、この3枚組のアルバムはウッドストックや他のロック・フェスティバルのライブ盤には収められていない貴重なアーティストのライブ音源が目白押しで、是非ともCD化して欲しい作品なのだ。
特にカーマイン・アピス&ティム・ボガードを擁したカクタスのド迫力のライブ音源は貴重で、重厚なブルース&ロックを演奏しているマニアライクなもので是非再び世に出して欲しいものだ。
さて話を元に戻そう。
デュアン・オールマン在籍時のオールマンズのアルバムはライブ・スタジオ併せても片手で数えられるほどしか無く、偉大なギタリストの割には残された作品が少ない。
それはそれほどに早くこの世を去ってしまったという事なのだが、そういった事実が余計にデュアンの存在を伝説化させてしまった感じはあり、今日改めて聞いてもその認識は間違っていないと思う。
個人的な事を言えば私は二人のギタリストを除いてスライドギターはあまり好きではない。
なぜなら、第一に音程が不安定、そして音が冷たくて金属的である、の2大理由による。
二人というのは正にデュアンとジョニー・ウィンターの事で、特にデュアンのそれは他の追随を許さない圧倒的な存在感を持ったプレイだ。
音程は極めて正確で音質も金属バーを使った時のようなクールな響きはなく、“まろやか”でありながらネットリとまとわりつくようなデュアンならではの唯一無二の音だ。
1970年前後のギタリストを中心としたロック以降現在に至るまで数多くの優れたギタリストが出現したが、遂にデュアンのようなスライド・プレイヤーは現れなかった。
つまりそれほどまでにデュアンの存在は群を抜いていたという事なのだろう。
まさに若き天才だったわけだ。

さてこのアルバムだが、1970年に開催された「アトランタ・ポップ・フェスティバル」の7月3日と5日の彼らのステージを記録したもので、それぞれ1枚ずつのCDに収められた2枚組である。
オールマンズのライブというよりもロック界に燦然と輝く名盤として評価の高い「フィルモア・ライブ」の約8ヶ月前の録音になるわけで、彼らの最も輝いていた時期の作品として価値は大きい。
全体的な選曲は「フィルモア・ライブ」と大差はない。
ということはこの時期の彼らがこういうセットリストで演奏をしていたという事だろう。
ただ大きく違うのはセカンド・アルバム「アイドルワイルドサウス」に収められていた「フーチー・クーチー・マン」が演奏されている点だろう。
私はこれに狂喜した。
この曲が好きなのだ。
それにこの曲のカバーではオールマンズのものが断然良いと昔から思っていたから、今回のアルバムは非常に楽しみだった。
それでこのアルバムの出来はどうかという事になる訳だが、「良い!」と私は思う。
「名盤」との誉れが高い「フィルモア・ライブ」と比較すると、やはりフィルモア盤の方が彼らの公式ライブ・アルバムとしてリリースされたという必然性が良く分かるという差はある。
つまり簡単に云えば「フィルモア・ライブ」の方が全体のパフォーマンスとしては高いという事なのだ。
フィルモア・ライブが録音された時は当然メンバーにはライブ・レコーディングをするという意識はあっただろう。
そのせいかどうか分からないがフィルモア盤の方が優等生的な整理された演奏を感じさせ、南部のライブ・バンドの大きな魅力である荒々しさが影を潜めた演奏になっている。
もちろんそういう彼らも良いのだが、ロックバンドとしてはもっと別な面があるはずだ。
特にライブ・バンドを自認していた彼らの事だから、構えのない自然な演奏の方が彼ららしいと言えるのではないかと思うのだ。
そんな意味でアトランタ・ポップのライブは彼らの素性が垣間見える気がして良いのだ。
彼らの18番ともいえる「ステイツボロ・ブルース」でのデュアンの豪快なスライド・プレイ、そして「フーチー・クーチー・マン」でベリー・オークリーの南部なまりむき出しのヴォーカルを聞かせた熱いブルース表現など、どれも聴き応え充分の濃密さだ。
唯一残念なのは「ストーミー・マンデイ」でのチューニング狂い。
これはグレッグの歌が良いだけに非常に残念。
そしてこのアルバムのもう一つの小さな「売り」はジョニー・ウィンターが7月5日テイクの「マウンテン・ジャム」で参加している事だ。
ジョニーもこのフェスティバルには参加していたわけで、先に紹介したソニーから出ていたLP3枚組のアルバムでも聞く事が出来る。
今年の6月に発売になったマイク・ブルームフィールドとアル・クーパーの「フィルモア・イーストの奇蹟」でもジョニーがゲスト参加して熱い演奏を聞かせているが、残念ながら本作品ではあまりジョニーらしいプレイは聞こえてこないので、ジョニー・ファンはあまり期待しない方が良い。
先にも述べたがこのアルバムの最大の魅力は彼らの野趣にあると思う訳で、それはロックバンドとしての真骨頂を表現したものであり、「フィルモア・ライブ」とは異なる魅力が満載されたものだ。
しばしの間、今は亡きデュアンそして若きオールマンズの熱いプレイに酔いたい。